「フィリピン大統領の暗殺を依頼した」とサラ副大統領、現職マルコス対前職ドゥテルテの全面対決へ
その際、ドゥテルテ氏は麻薬取引の容疑者を殺害した警官に最高100万ペソ(約260万円)から2万ペソ(約5万円)の報奨金を出すと話した。ガルマ氏は麻薬戦争で多くの著名人が殺害されたことは「周知の事実」だと述べ、なかには複数の地方自治体首長も含まれると証言した。 報奨金の支払いについては、前大統領の特別補佐官だったボン・ゴー上院議員に報告が上がっており、ゴー氏が「ダバオ方式」の全国展開を担っていたように見えると話した。
ドゥテルテ氏やゴー氏は報奨金などについて否定したが、証言が詳細だっただけに衝撃は大きく、司法省に捜査を促すきっかけにもなった。 さらにICCの捜査員が10月にフィリピンを訪問し、関係者から事情聴取しているとの報道や逮捕状発布が間近との証言が出て、「いよいよ」感は膨らんだ。 筆者の観察では、ICCの捜査を促し、収監を恐れないとのドゥテルテ発言は本心からではない。一連の証言からは外堀を1つひとつ埋められて追い詰められるドゥテルテ氏の焦りを感じる。
■支持者を鼓舞する乾坤一擲 サラ氏が大統領選を譲った裏には、ICCへの捜査に協力しないという両陣営の暗黙の了解があったとみられるが、マルコス陣営がこれを反故にしようとしているのではないかとの疑心暗鬼が根底にある。 行政府と下院を握るマルコス陣営に対しサラ氏の形勢も不利だ。議会証言は、劣勢に追い込まれたドゥテルテ氏が打った乾坤一擲の勝負手だったと私は見る。健在をアピールし、支持者を鼓舞したのだ。 しかしながら父娘の「ドゥテルテ劇場」は世間の耳目を集めはするものの、ドゥテルテ家最大の政治的資産である「人気」に陰りをもたらし、墓穴を掘っているようにみえる。
フィリピン大などの研究グループ「OCTAリサーチ」による2024年3月期の調査によると、マルコス氏に対する支持率は65%と前回の2023年12月期から6ポイント下落したが、一方のサラ氏は64%と前期から11ポイントの大幅減だった。 正副大統領選前から一貫してマルコス氏を上回ってきたサラ氏の支持率が初めて逆転した。さらに2024年9月期の調査では両者の差は14ポイントにまで広がった。 地元ミンダナオ島でこそ高い支持率を維持しているものの、マニラ首都圏など他の地域で、サラ氏の落ち込みは顕著である。