「フィリピン大統領の暗殺を依頼した」とサラ副大統領、現職マルコス対前職ドゥテルテの全面対決へ
犠牲者の遺族らの訴えを受けて、ICCが「人道に対する罪」で捜査を始めると、前政権は2018年にICC脱退を宣言し、1年後の2019年3月に正式に脱退した。しかしICCは、脱退以前の期間は捜査対象になるとして、ドゥテルテ氏のダバオ市長時代にさかのぼって調べを続けている。 他方、容疑者とされるドゥテルテ氏や側近らは捜査への協力を拒み、捜査官らに罵詈雑言を浴びせてきた。それが一転して捜査に応じるかのような今回のドゥテルテ発言は驚きをもって受け止められた。
ベルサミン官房長官は11月13日、「前大統領がICCの管轄権に身を委ねることを望むのであれば、政府は異議を唱えることも阻止することもない」との声明を出した。 さらにICCが国際刑事警察機構(インターポール=ICPO)を通じて国際手配書を出した場合、国内の法執行機関は全面的に協力することが義務づけられていると付け加えた。 マルコス大統領も翌11月14日に「ドゥテルテ氏が望むのであれば、ICCを阻止しない」と発言した。大統領はかねてICCの国内捜査には協力しないと表明してきただけに、こちらも対応の変化を指摘された。
■フィリピン国内でも捜査タスクフォース さらにレムリア司法相は11月18日、超法規的殺人について前大統領らを捜査するタスクフォースを11月初めに立ち上げたことを明らかにした。ICCの「人道に対する罪」と同様の国際人道法や刑法、その他の特別法など国内法に違反していないかについて調べ、前大統領や実行犯らを起訴する可能性にも言及した。 マルコス現政権はこれまでICCの捜査には協力しない姿勢を示してきたが、ドゥテルテ発言を受けて立ち位置を変えたとみられる。
ドゥテルテ氏は議会の召喚には応じないとみられていた。にもかかわらずなぜ政敵からの詰問にさらされる場にあえて出向いたのか。さらなる疑問は、なぜICCの捜査に応じるとか刑務所に行く覚悟があるといった挑発的な発言をしたのか。それは本心からなのか。 ドゥテルテ氏の公聴会出席には前段があった。ダバオ警察署長も務めた女性警察幹部ロイナ・ガルマ氏が10月、超法規的殺人について議会で詳細に証言したのだ。ガルマ氏は2016年5月、大統領への就任が決まっていたドゥテルテ氏に呼び出され、「ダバオ方式」の麻薬戦争を全国規模で実施する警察部隊の編成に協力するよう求められたという。