「もっとオトナになれると思っていた」幼稚で愛すべき同年代に贈りたい『アイデン & ティティ』
4月23日“サン・ジョルディの日”にちなんで、「もっとオトナになれると思っていた」幼稚で愛すべき同年代に贈りたい『アイデン & ティティ』を紹介します。 【マンガ】19歳男子大学生が死にかけた…山奥の駅で遭遇した「衝撃的な事態」 (サン・ジョルディの日とは…スペイン等の欧州地方では古くから、4月23日に大切な人に本を贈る習慣があります)。
人生の折り返し
先日、41歳の誕生日を迎えた。 もうすっかり妙齢というに相応しい歳になった。 今日まで生きてきたのと同じ日数を、もう1度生きられるかも分からない。 人生の折り返しに入ったのかもしれない。 41歳はもっとオトナだと思っていた。 振り返れば「二十歳はもっとオトナだと思っていた」し「三十歳はもっとオトナだと思っていた」のだ。同じように、「41歳はもっとオトナだと思っていた」というわけ。 どんなに歳を重ねても「もっとオトナになっているはずだった」という感覚が、「やっと年相応のオトナになれた」に更新されることはないのかもしれない。そんなことに41歳になってようやく気がついた。 思い返せば子どもの頃から、自立したい欲だけはひと一倍だったように思う。とにかく「実家から遠ざかること」「親に頼らないこと」そればかりにこだわってきた。早くオトナになりたい子どもだったのだ。
「もっとオトナになれると思っていた」幼稚で愛すべきオトナに贈りたい。
さて、『アイデン&ティティ』というみうらじゅんさんの自伝的漫画がある。 私はこの本を「もっとオトナになれると思っていた」幼稚で愛すべき同年代に贈りたい。 1992年に青林堂から刊行された『アイデン & ティティ』を始めとする、その後2004年までに発売されたみうらじゅんの自伝的な漫画シリーズ。2003年に田口トモロヲが監督、脚本に宮藤官九郎、銀杏BOYZの峯田和伸が主演で映画化された。 初めて読んだのは二十歳ぐらいだったかな。 もしかしたら2003年に公開された映画版が先だったかもしれない。 当時の私は学費が医学部並みに高い大学に通っていた。 残念なことに医学部ではなく美大だったのだけど、映像舞台芸術学科だったので機材費や設備費が高額なうえに、授業で使うカメラや編集機器にもお金がかかる学部だった。 もちろん全て親の財力だ。 医学部を卒業すればそれなりに稼ぎのある仕事に就けるかもしれないが、美大だとそうはいかない。 誤解を恐れずに言うと、美大にいる連中は私も含め「何者かになりたい」という雲を掴むような未来を描いている奴らが大半で、卒業後も夢から醒めぬまま安定した職に就かずにいる者が少なくない。それが良いことか悪いことかはまた別のお話で、私は卒業後数年で会社員を辞めて未だ自由業で楽しくやっている。 学生時代は、そんな「不自由なく学費の高い大学に通う自分」にコンプレックスを感じていた。親の財力でお金の苦労をすることがない “生活そのもの” がコンプレックスだった。美大生たるもの、苦労をしてこそだと思っていたのだ。だってあのゴッホも苦労していたんだもの。 「不幸なことに、不幸なことがなかったんだ」 原作である漫画版では10話で出てくる。 同じロックを志していたバンド仲間の岩本が、いつからか芸能界の波に器用に乗り始める。その姿が主人公・中島にはロックに反しているように感じる。一方自分も「ロック」でありたいのに、「ロック」になれない。なぜなら中島は「不良でも優等生でもなく」「家も中流で親もフツー」であり、「それが僕のコンプレックス」なのだ。 情けない葛藤の末、出てくる台詞「不幸なことに、不幸なことがなかったんだ」はこの作品を語る上で欠かせない。