ゴミ屋敷の住人を救おうと奮闘を重ねるおせっかいな訪問看護師の日々とは
訪問看護師の山下みゆき氏は、父親の孤独死を教訓として、孤立者の支援のため「さえずりの会」を立ち上げた。多くの当事者に寄り添い続ける彼女が、高齢者のセルフネグレクトの実態を語る。本稿は、菅野久美子『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 毎日とんかつとハンバーグで高血糖 糞尿まみれで悪臭を放つ部屋 現在、山下は父の孤独死の体験を活かすために、訪問看護師として、ゴミ屋敷の住人とも積極的に関わるようにしている。もっとおせっかいを焼いていれば、父の異変にも早く気づけたかもしれない。 父のような人が世間にはごまんといるはずだ。そんな思いが、山下を突き動かしている。 今、受け持っているのは、糖尿病を患っている河合千代(仮名・70代)だ。計測器の針が振り切れるほどに血糖値が高くなったことがあり、路上で倒れているのを発見されて、救急搬送された。 それ以降、山下は、千代を数日おきに訪問して、血糖値を測ったり、薬を服用させたりするなどの訪問看護を行っている。 千代が住む埼玉県の3LDKのマンションは、幾層にもゴミが堆積した足の踏み場がないほどのゴミ屋敷で、ドアを開けると、すぐにツンと異様な臭いが鼻についた。 奥にあるキッチンは、もはやたどりつくことすらできないほどに、ゴミで溢れていた。 千代は風呂にも入らず、同じ洋服を毎日着ているせいで、お尻のあたりは生地が摩耗して、下半身の一部が露出している状態だった。 常時おむつをつけていて、排泄すると口の開いたビニール袋の中に放置してしまう。部屋のいたるところに糞便にまみれたおむつが無造作に置かれ、この世のものとは思えない凄まじい悪臭を放っていた。 俗に言う、典型的なセルフネグレクトだ。
山下は、千代のセルフネグレクトについてこう語る。 「いつか父のように家の中で倒れて、孤独死しているんじゃないかと気になって仕方ないの。私たち医療者が訪問できるのは数日おきなので、毎日様子を見に行けるわけじゃない。 一番の心配は、偏った食生活による急死ですね。マンションのすぐ近くにファミレスがあるんですが、河合さんは毎朝、ファミレスでとんかつやハンバーグを食べているみたいなんです。 そんな不摂生をやめようとしないから、血糖値が一気に跳ね上がる。高血糖の発作がいつ起こって、意識障害で倒れていてもおかしくない、危険な状態になっているんです」 ● 元キャリアウーマンの彼女がなぜ? 極度の買い物依存でゴミ屋敷に変貌 千代は大学卒業後、都内で秘書として働き、定年まで勤め上げた。いわば、バリバリのキャリアウーマンだ。3LDKのマンションは持ち家で、ローンは完済している。独身で一人暮らし。 きょうだいはいるが、ゴミ屋敷ということもあって誰も彼女に関わろうとはしない。年金の中から好きなものを食べたいときに食べて、買いたいものを買う。そんな生活がたたって、深刻な糖尿病を患って数年が経過していた。