【世界の宿】強盗にあった旅人が集結する「4段ベッド」宿『旅人マリーシャの世界一周紀行』第367回
後日の宿泊を約束して、私は元々予約していた「IDEAL SOCIAL Hostel」という、今度は世界から旅人が集まる安宿に移動した。 「今さっき強盗に遭ってしまって、本当に申し訳ないんですけどあとでお金を用意するのでひとまずチェックインさせてもらえますか?」 受付で無理なお願いをしていると、 「君も? 俺も! 俺も!」 なんとそこには他にも強盗に襲われた各国の旅人がいた。全部で8人も! ロビーは強盗トークで持ちきり。なんでもこの日は計画停電があったため、そこを狙ったのか異常なほど犯罪だらけだったらしい。宿のロッカーの鍵を盗られた人もいて、電ノコで火花を散らしながら施錠部分を破壊したりと宿側は大変だっただろうが、被害者たちを受け入れ懸命にフォローしてくれた。 また現地宿泊客からも温かい励ましを受けた。アルゼンチン人にとって欠かせないものと言えばマテ茶。伝統的なひょうたん型のコップに茶葉を入れ、鉄製のストロー(ボンビージャ)で飲むのがお決まりだ。 「アミーゴ(友達)なんだから同じボンビージャ(鉄製ストロー)で飲むのよ」 マテ茶は「ロンダ」と呼ばれる回し飲みが基本マナーで、親しい仲や信頼関係を示す。私は彼女らにアミーゴとして迎えられ、回ってくるマテ茶を何度もすすった。緑茶より少し苦いマテ茶は、恐怖で強張っていた私の心と身体の緊張を和らげてくれた。 神経をすり減らした一日だったが、やっと少し眠りにつけそうだ。その時、私は男子ドミトリーのドアの隙間からとんでもないものを発見! 「1、2、3......、えええ! 4段ベッド!?」 そこには落ちたらひとたまりもない高さに組み立てられたスチールベッドがあった。なんと柵もないチャレンジングな設計。 4段目の高さから落ちるのも怖いが、上から落ちてくるかもしれない下段に寝るのも怖い。実際登った人の話だとあまりにも高くて揺れるし、壁に張り付くしかなく眠れる気がしないとのこと。 日本ではなかなかお目にかかれない......というか世界125ヵ国でもここでしか見たことのない世にも珍しいベッドだった。(どこで売ってるんだか) 女子ドミトリーに4段ベッドはなく、私は2段ベッドの下段で強盗被害を振り返ってはメソメソと泣いた。 ブエノスアイレスでは何もできなかったので、いつかリベンジの旅をしたいと思っている。その時はまたこの宿のドアを叩いてみよう。