日立やパナソニックも注目のCO2見える化大手のゼロボード。Google AI集団ルーツのESGベンチャー事業を買収
ESG領域「1社では全てをカバーできない」
データシードCEOの福田氏も、今回のM&Aについて次のように話す。 「グローバルでスタートアップを見ると、IPOだけがゴールではない。しかも、サステナビリティ領域の複雑性や専門性を考えると、1社ですべてをカバーするのはあまりにも広すぎる。M&Aというカードも含めて検討したほうがそれぞれのチームが本当にしたいことができると考えていた」(福田氏) カルチャーフィットもM&Aに合意する上で大きな理由だった。 「ゼロボードとはお客さまの支援についての考え方、ビジネスとして目指す方向性や最終的なゴールが似通っている部分が多かった。であれば、会社を一緒にしたほうが開発も加速させられるのではないかと判断した」(福田氏) また、福田氏と同じく「成長スピードを上げるには、オーガニックに増やすだけでは限界がある」と、考えていた渡慶次氏と意見が一致。わずか2~3カ月で事業譲渡が決まった。 事業売却の手法にも、スピード感を持って進めようという意図が見える。売却価格は非公開ではあるものの、今回のM&Aでは、対価を一括で支払うのではなく、一定期間後の業績を踏まえて追加対価を支払うアーンアウトと呼ばれる手法を採用している。 「我々としてはデータシードと早くビジネスをしたいという思いがあったのですが、一般的に企業の価値を決めるのはなかなか難しい。短期間で各ステークホルダーが納得するスキームにする必要があったため、データシード部門の事業成長に応じていわば譲渡価格を後決めできるアーンアウトにしました」(渡慶次氏)
「改善のためのデータ」が企業価値を上げる
今後、まずはデータシードの既存プロダクトの販売から始める。同時に、今後2~3カ月かけて、ゼロボードのプラットフォームとの統合方針を検討する予定だ。 「データシードにはデータサイエンスに詳しいメンバーがいる。さらに今後、エンジニアの数を20~30人増やしていく予定。それらを含めてプロダクトの開発スピードを上げていきたい」(渡慶次氏) データシードには外国籍のメンバーも多いことから、現在アジア中心に行っているゼロボードの海外展開の加速にもつながるという。 ESG経営を高度化するために、データの質は今後ますます重要になってくると福田氏は指摘する。 「女性の管理職比率や単年度のKPIの進捗状況といったものが初期段階とすれば、次の段階では、例えば改善施策によるROI(投資利益率)の上昇効果、さらには株価との連動や組織の生産性とのリンクなどが重要になる。そのあたりは、開示するためだけのデータでは見えてこない」(福田氏) GHGに関しても同様だと渡慶次氏は言う。 「スコープ1・2・3のデータだけあればいいわけではない。各拠点・各サプライヤーの何が多いのかを見極めないと効果的に改善できない。その意味で改善のためのデータが必要になる」(渡慶次氏)
三ツ村 崇志,湯田陽子