国立大学の「授業料値上げ」検討 無償または安価な欧州型から高い米国型に転換図るが…財政事情は財務省の〝幻影〟だ
【日本の解き方】 東大が学費(授業料)の引き上げの検討に入ったことが話題になっている。国立大の授業料を3倍の「年150万円」に上げるべきだという伊藤公平・慶応義塾長の提言も波紋を広げているという。 大学の授業料についてまず世界の状況をみておこう。ざっくりいえば欧州は無償または安く、米国は高めだ。 国公立大学の授業料を無償化している国は珍しくない。 デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンなど北欧各国がその代表例で、フィンランドやスウェーデンでは私立大学も無償化されているという。 ほかの欧州諸国の状況をみても、ドイツでは一部の州で管理費がかかる例を除いて国公立大学は無償だ。フランスの場合、登録料はかかるが、公教育を無償化すると憲法で定めている。 英国やオーストラリア、ニュージーランドでは卒業後に支払う仕組みが多い。また、スペインやイタリアなどでは、完全な無償化ではないものの、学費は比較的安い。 これに対して、米国の大学授業料は総じて高い。 筆者の感覚からいえば、一流私立大学では年間5万ドル(750万円)以上、平均的私大でも4万ドル(600万円)、州立大学では州外者が2万ドル(300万円)、州内者1万ドル(150万円)といったところだろう。ただし、日本での短大に相当するコミュニティーカレッジの学費は安い。 これまで日本は、米国タイプの教育政策に向けて、公費負担を減らすような動きばかりだった。筆者が大学に入ったとき、国立大学の授業料は3万6000円だったが、卒業時には18万円まで引き上げられた。 公費負担を減らす政策がとられてきた背景として、子供の教育には親が責任を持ち資金を払う、という考え方が強いともいわれる。だが、急速な授業料引き上げから分かる通り、財政事情を理由とする当時の大蔵省(現財務省)の方針にほかならない。 ただし、本コラムで紹介したように、当時の大蔵省内にも「教育国債」という考え方があり、高等教育を安く、無償化してもいいとの考え方もあった。 費用対便益という観点からすると、高等教育は高い投資効率があるので、当面の費用を教育国債で賄っても将来的に所得増として戻ってくる。そこから、無償または安価な高等教育という結論になる。言ってみれば、欧州タイプの教育政策である。