綾野剛が悪い奴を好演! 最初から主人公に迷いがなかった 白石和彌監督
原作者・稲葉氏はとても魅力的な人
主人公のモデルとなった原作『恥さらし 北海道警悪徳刑事の告白』の著者、稲葉圭昭(よしあき)氏の印象については、次のように述べている。 「今まで出会ったことのないタイプ。マメで人を惹きつける不思議な魅力を持った方。今でも山っ気が強くて、『ラブホテルやりたい』とか、そういう話をするんですよ。自分の欲望に素直というか、てらいがないんです」 普段、人は生きていくうえで、そういう部分は押し隠していくのが普通だ。稲葉氏が悪徳刑事として暗躍し、事件が明るみに出て逮捕された2002年までの間、白石監督は札幌に住んでいた時期もあり、その時代の空気感や事件については記憶しているという。
「シートベルトする刑事がどこにいるんだ」
容疑者追跡中に、新人・諸星が先輩に怒鳴られたシーン。 「悪い映画を撮るときに、どこかでコンプライアンス(法令遵守)を僕自身が破壊する。やれる範囲の中ですけど」 実社会では訴えれそうなセリフが飛び、そもそも違法捜査をしていて、覚せい剤20キロはよくて、130キロはダメだという会議など、とんでもない話だというのに、クスッと笑いが漏れてしまうシーンが随所にちりばめられている。 そして、終始心がけたのは「今を生きている感」を出すこと。 「(撮影では)あぁ、この人この後○○するんだと思っているけれど、僕たちが生きているうえで、先のことはわからないじゃないですか」 諸星がSたち(黒岩【中村獅童】、山辺【YOUNG DAIS<やんぐ・だいす>】、ラシード【植野行雄<デニス>】)と過ごすきらきらした時間がすごく楽しそうに描かれているのも、殴り合うシーンに凄味があるのもそのせいだ。 「綾野剛の芝居は、”こうやりたい”がはっきりしている。ただ、先々の計算はやめようと話していました」
そして、まだ事件は終わらない
稲葉氏の逮捕後、道警の裏金問題に発展していったが、ほかの逮捕者は未だに出ていない。しかし、札幌地裁は今年3月3日、1997年の銃刀法違反で実刑判決を確定した元ロシア人男性が「道警のおとり捜査は違法だった」という訴えを認め再審開始を認めた。いずれ真実が明らかになる日がやってくるかもしれない。 人間の弱さと権力の前に抗えない虚しさを、ブラック・ジョークのような感覚で笑い飛ばす。 『日本で一番悪い奴ら』6月25日[土]全国ロードショー 公式ホームページ ■白石和彌(しらいし・かずや)■ 1974年北海道生まれ。若松孝二監督に師事し、『明日なき街角』(97)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)など助監督として参加する一方、行定勲、犬堂一心監督などの作品にも参加、初の長編映画監督作品『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010)を経て、13年ノンフィクションベストセラーを原作とした『凶悪』で同年の各映画賞を受賞。