加山雄三「ゆうゆう散歩」は地井武男からの「直電」がきっかけだった 「人生で一番うまいおむすびを食べた」
実は暑さに弱いんだ
そんな事情で、「ゆうゆう散歩」を続けることになったんだ。 「ゆうゆう散歩」の収録は、ものすごく歩くんだ。あんなに歩くとは、楽しくもあり、つらくもある。週に2回、1日に2本ずつ録るから、朝から夕方まで歩き続けるんだな。夏も、冬も歩く。晴れでも、雨でも、雪の日でも歩く。 一つ打ち明けるけれどさ。俺は若大将といわれて、夏の男のイメージが強いだろ? でも、実は暑さにはめっぽう弱いことに気づかされた。海ならばまだしも、街中の暑さにはまいってしまう。だから、夏の収録は苦しかった。ぐったりとしちゃう。寒さには強くて、冬は頑張れるんだけれどね。 もっと白状するけれどさ。真夏のロケは行きたくなかった。俺だって生身の人間だからね。3年以上も歩いていたら、気分が乗らない日だってあるさ。体調がよくない日もある。散歩の番組というのは、収録中に数えきれないくらいの人と握手をする。だから、風邪もひきやすい。体調管理にも気を遣うんだ。
関心、感動、感謝
「ゆうゆう散歩」のころは本当に忙しくてね。2014年から2015年にかけては全国47都道府県を全部まわるツアーをやっていた。とにかく旅が多かった。毎週末日本のどこかでコンサートをやって、帰るとすぐに「ゆうゆう散歩」を収録して、週の後半にまた収録して、その間は打ち合わせやリハーサルがあって、休む間がない生活を送っていた。 あの3年半は戦いだったよ。自分との戦いだ。今日は行きたくないなあ、と思う自分を自分で励まさなくてはいけない。 大切な仕事だ。縁あっての仕事だ。行きたくないと思う自分が間違っている。それは十分に承知している。 「仕事をもらえていることに感謝」 「大変なのは俺だけじゃない。スタッフも同じだ」 「みんなありがとう」 いつも心の中で自分に言い聞かせていたよ。そんなふうに葛藤しながら、ロケに出かける。しっかり収録を終えられたら、俺は自分との勝負に勝ったことになる。 俺は今も次の三つを大切にしている。関心。感動。感謝。 これを「人生の三“かん”王」と呼んでいる。 こういう話をするとさ。悟りの境地ですね、と、ときどき言われる。でも、それは違うんだな。そんな立派なものじゃない。悟りだなんて思っているうちはまだまだなんだ。真夏の40度に近い日にまる一日歩くロケも平常心でこなせなくちゃいけない。ただそれだけのことだよ。 もちろん、「ゆうゆう散歩」には楽しい体験はいくつもあったよ。思い出深いのは、長野県の姨捨(おばすて)棚田を歩いたロケだよ。この土地の人はみんな気持ちよくてね。それに、棚田米っていうんだけど、米がものすごくうまい。