ベトナムに220人の里子が…「福祉は一方通行だ」杉良太郎がそれでも活動を続けてきた“本当の理由”
「レアアースが入ってこないと、日本の産業は停滞してしまう。ただちに別の輸入先を探さなくてはならない。特命でベトナムに行き、ベトナム政府と交渉してくれないか」 僕は首を縦に振れなかった。というのも、その時ベトナムでは「ハノイ建都1000年祭」という大規模なお祭りが開かれており、各国の要人が詰めかけていた。加えて、当時の首相は海外出張中で不在、政権を担うベトナム共産党幹部も地方出張中で、要人に会って交渉するなど難しいと思ったからだ。でも大畠大臣は「頼む、なんとかしてくれ」と拝み倒さんばかりの勢いで、しまいには「松下忠洋副大臣も同行させるから」と。根負けして、「やるだけやってみます」と答えたものの、「弱ったな」というのが本心だった。
「まるで遠山の金さんだったよ」
すぐにハノイに渡り、関係機関に「大事な用件があるので、レアアースに関係する大臣にお会いできないか」と頼むと、何人かの大臣がハノイに戻ってきてくれた。 「日本は今までベトナムに協力してきました。ベトナムの人たちには、何かお返しをしたいという気持ちがあるのではないでしょうか。もしそうだったら、日本が困っている今、ぜひ力を貸していただけませんか」 すると大臣の方々は口々に「できるだけのことはしたい。レアアースの輸出について事務的な話を進めましょう」と。松下副大臣同席の場で、確約をもらうことができたんだ。その後、菅首相がベトナムに渡り、レアアース開発に関する共同声明を発表した。 「あの理詰めの交渉は、まるで遠山の金さんだったよ」 一部始終を知る人たちには、そう評された。そしてこうも言われた。 「杉さんが手を尽くしたのに、これでは首相がやったかのように見えて、杉さんの手柄にならないね」 でも、僕はそれでいい。これまでもこの国のために、と働いてきて、自分自身のことは考えていない。 (聞き手・構成=音部美穂・ライター) 本記事の全文 は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。 ■杉良太郎 連載「人生は桜吹雪」 第1回「安倍さんに謝りながら泣いた」 第2回「住銀の天皇の縋るような眼差し」 第3回「江利チエミが死ぬほど愛した高倉健」 最終回「『筋金入りのお方ね』美智子さまのお言葉に感激した」
杉 良太郎/文藝春秋 2024年3月号