たった1つの遺伝子をノックアウトしただけで「ES細胞が無力に」...山中伸弥が生涯をかけて追い続ける遺伝子との「偶然の出会い」
人生100年時代。平均寿命が上がり続けている現代の日本では、そう遠くない未来に100歳まで生きることも当たり前になっているだろう。そんな時代にいつまで現役を続けられるのか?どんな老後の過ごし方が幸せなのか?医療はどこまで発展しているのか? 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 ノーベル賞学者と永世名人。1962年生まれの同い年の二人が、60代からの生き方や「死」について縦横に語り合った『還暦から始まる』(山中伸弥・谷川浩司著)より抜粋して、還暦以降の人生の楽しさや儚さについてお届けする。 『還暦から始まる』連載第14回 『「今では立場が逆転」…医学と将棋のプロフェッショナルの、老いて「諦める」ものと「それでも頑張り続ける」もの』より続く
NAT1は生涯のテーマ
谷川生涯のテーマという研究は、どういうものなんでしょうか。 山中NAT1は僕が留学していたアメリカのグラッドストーン研究所で見つけて、名づけた遺伝子です。最初に見つけた1997年からずっと研究しているんですけれど、まずわかったのは、この遺伝子がES細胞にとって非常に大切ということです。 ES細胞には、ほぼ無限に増えるということと、体中のあらゆる細胞をつくりだせるという、2つの性質があって、NAT1は2つ目の能力に不可欠の設計図ということがわかったんです。つまりNAT1という設計図を働かなくすると、ES細胞は増えることはできるけれども、ES細胞から脳の細胞とか神経細胞をつくりだすことができなくなる。それでES細胞の研究を続けた結果できたのが、じつはES細胞に働きがそっくりのiPS細胞なんです。
人間万事塞翁が馬
谷川NAT1研究はiPS細胞の生みの親というわけですか。 山中そういうことです。それも最初は動脈硬化の研究をしていたら、予想外の結果から偶然、がんの研究に没頭することになって、がんの研究をしているつもりが、ES細胞に大切なNAT1を発見することになりました。 本当に何が功を奏して、何が悪いことに転じるかなんてわかりません。まさに「人間万事塞翁が馬」ですよ。 谷川山中さんの座右の銘の通りですね。 山中でもES細胞にとって大切ということはわかったけれども、なぜ大切かがまだわかっていません。ES細胞だけではなく、脳や心臓、皮膚、血液、あらゆる細胞でNAT1が普遍的な働きをすることがわかりつつあって、でもどういうふうに重要かがまだ全然わかっていない。 DNAがRNAに転写されて、RNAがタンパク質に翻訳されるとき、NAT1はその翻訳に関わっているのは間違いないんですけれど……なかなか苦しんでいます。
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