平均飛距離89位でも通算5勝 策士・青木瀬令奈の決意「10勝に向けて次の段階にいきたい」
ゴルフの国内女子ツアー開幕まで2週間を切った。250ヤード以上飛ばす若い選手が増えている中で、飛距離だけがゴルフじゃないといわんばかりに存在感を示しているのが、31歳の青木瀬令奈である。ドライバーの平均飛距離は常に“最下位”を争う。それでも2023年は自身初の年間2勝を挙げて通算5勝目を達成。メルセデスランキング(MR)は12位の成績を残している。今季はキャリアハイの成績を目指す。飛距離に勝る青木の“工夫”と“決意”がスゴイ。 青木瀬令奈が大切にする1パットで沈めやすい”ゼロライン”ってなんだ⁉ ■平均飛距離224ヤードでも23年は年間複数V 2023年のドライビングディスタンスを見ると、青木は224.22ヤードで規定ラウンドを満たした90人中89位。同部門1位は昨季2勝を挙げた神谷そらの260.82ヤード。青木とは35ヤード以上の差がある。全体を見ても17人が平均250ヤード超えで、40人が平均240ヤード超えである。 ほとんどの選手に20ヤード以上置いて行かれる青木だが、昨シーズンは結果を残した。春先の「Tポイントレディス」では、最終日の6番ホールを終えた時点で首位を走る上田桃子に8打差をつけられながら逆転でシーズン初優勝。そして、シーズン終盤の「エリエールレディス大王製紙エリエールレディス」でも最終日に2打差を逆転して年間2勝目、通算5勝目を挙げた。 「今年こそという気持ちでシーズンを迎えました」。11年のプロテストに合格した青木はプロ5年目の15年に初シードを獲得。17年に初優勝を遂げ、22年までに通算3勝目をマーク。23年の目標の1つが年間複数回優勝、そして通算5勝目を挙げることだった。 通算5勝というのは、数年前から掲げる大きな目標の一つ。そのきっかけとなったのが、今では二人三脚で青木をサポートする大西翔太コーチだ。まだシードも手にしたことのない青木だったが、ゴルフに取り組む姿勢やポテンシャルを見て、「君なら5勝はできる」と言葉をかけた。そして、15年からキャディを兼務する形でタッグが始まった。 ■美容室やネイルサロンを封印してゴルフに没頭 当時の青木は、ドライバーの飛距離は200ヤードに満たなかった。大西コーチの指導によりアッパーブローで効率のいいスイングを習得し、220ヤード前後にまで伸ばした。小技巧者の青木がツアーで戦えるための飛距離を手にしたことで初シードを獲得できた。 そして技術の向上、マネジメント力など底上げを図って17年に初優勝を遂げたが、その後3年間は勝利から遠ざかる。 「5勝目を挙げるためにいろんなものを制限してきました」。2021年5月、ある決意をした。大好きな宝塚歌劇団の鑑賞は辞め、美容室やネイルサロンにもいかない。また、飲酒すると次の日のプレーに影響が出るとして、アルコールの摂取もやめた。「どうやったら勝てるかというところに考える時間に充てたい。あとは自分にとって苦しい選択をし続けたほうが、成績につながるタイプだと気づけたんです」。 決意の結果、21年に「サントリーレディス」、22年に「資生堂レディス」を制し、23年に年間2勝。年を重ねるごとに平均ストロークや獲得賞金など自己最高の成績を塗り替えている。 23年シーズンに新たな取り組みが毎週月曜日のトレーニングだ。オフの間にトレーニングで体を強化しても、シーズン中にトレーニングをやらなければ筋力は落ち、シーズン終盤に最高のパフォーマンスを発揮できない。「筋力のデータを図って、週イチのトレーニングだと微妙に落ちます」ということが分かり、月曜日のほかに大会中でも部屋でトレーニングを行うことで年間通して筋力を維持できるようになった。 「どこに筋肉痛があったら次の日いいとか悪いとか、逆にハリがあったほうが緊張感があっていいという発見もありました。毎年学びにできているので、すごくいいシーズンを送れていると思います」と話す。 ■“サラリーマンの星”とも言われる工夫が強み また、小技巧者の生命線もあるパッティング面でも、グリーンに合わせてパターを使い分ける試みも行った。以前からヘッド形状の異なる2~3本のパターをコースによって使い分けていたが、昨年はヘッド形状だけでなく、同じヘッドでもロフト角やネック形状違いを20数本用意した。「コーライとベントではボールの沈み具合が違います。ボールが立つコーライはロフトが少ない方がいいし、沈んでいるならロフトがある方がいい」。同じベントでも芝質や温度、湿度などを含めて違いが出る。大会によって、最適なパターを使用するこだわりも見せた。 今年2月に31歳になった青木だが、まだまだ“自己最高”を求める。「5勝できると、もう5勝、10勝が見えてくると言われるんです。次の段階に行きたいなと思っています」と目を輝かせる。 今年のテーマは飛距離アップかと思われたが「正直、飛距離は求めていません」と言い切る。昨年はスイングの安定感を求めて始めたトレーニングで少し飛距離は伸びたが、あくまでも“副産物”という認識だ。 「同じプレースタイルの選手に希望をもってもらいたいというのもあるし、(飛ばないので)サラリーマンの星とも言われるので(笑)。クラブセッティングとかにもこだわりがあるので、そういうところも含めて巧みなゴルフを突き詰めて、自分のプレースタイルでどう飛ばし屋向きのコースに打ち勝っていくか。毎週毎週できたらいいなと思っています」。 キャディバッグとみると、アイアンは8番から。7番アイアン相当は28度のユーティリティを2度寝かして30度にして自分好みのクラブに仕上げている。セカンドオナーでも誰よりもピンの近くに乗せるショットを見せたり、グリーンを外しても簡単にボギーをたたかないショートゲーム力が青木の強み。メルセデスランキング10位以内、獲得賞金1億円、通算10勝を目指して、青木の戦いはまだまだ続く。
ALBA TV