楽天証券の楠社長「とにかく戦った」SBIとの2強時代に
◇楠雄治・楽天証券社長インタビュー(1) 1999年10月に株式委託手数料が自由化されて今年で25年。ネット証券各社が激しい手数料値下げ競争を繰り広げ、2023年には楽天証券とSBI証券の大手2社で日本株取引の手数料がついにゼロになった。今年3月に設立25年を迎えた楽天証券の楠雄治社長に聞いた。【毎日新聞経済プレミア】 ◇株取引の大衆化が一気に進む ――楽天証券は、前身のDLJディレクトSFG証券の創業から数えて設立25年を迎えました。どう振り返りますか。 ◆あっと言う間だ。株取引に対する世の中の見方、考え方ががらりと変わり大衆化が一気に進んだ。25年間の変化はすさまじいと思う。 25年前は手数料自由化とインターネットの普及の初期段階だった。すでにアメリカで普及していたネット証券が日本で雨後のタケノコのごとく立ち上がった。株取引をすること自体が日常のことではない時代だったが、株取引が好きな人がパソコンを買いネット取引に乗り出してきた。 今では若い人たちが少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)を通じて資産形成の一部として始めている。ネット証券の口座を作るのは銀行口座を作るのとあまり変わらない感覚になっている。生活の一部としてNISA口座を持って将来のために投資をするのが普通になってきた。 ――ネット証券業界も淘汰(とうた)が進み、今では口座数で1000万口座を超える楽天証券とSBI証券の2強状態です。 ◆とにかく戦った結果だ。手数料競争で後に引かなかった。あとはサービスや商品のラインアップ競争で、常に先行するか、キャッチアップして、先頭を走ってきた。楽天証券とSBI証券がバトルを続けてきた。次第に他のネット証券は手数料競争についてこなくなり、新しいサービスで先陣を切ることも楽天証券とSBI証券以外はしなくなった。その2社に顧客が集まった。 14年1月からNISAが始まり、投資の大衆化が一気に進む。そこで楽天グループの強みを生かせることがわかっていた。投資信託の積み立てをクレジットカードで決済できるクレカ積み立てや楽天ポイントなど楽天グループのエコシステムの中核になる商材を投資の世界に持ち込んだ。その結果、楽天グループのお客様が流れてきた。そこで一気に口座が増えてSBI証券に追いついた。 ――SBI証券の親会社SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長は以前から日本株の売買手数料を無料化する方針を示し、23年9月末に踏み切りました。楽天証券も10月から無料化しました。 ◆あの方らしい。(北尾さんが)手数料無料化の方針を示した時は本当にやるのかなと思った。国内のネット証券では株式委託手数料の収益に占める割合がアメリカのネット証券ほど低くない。当社では収益の17%くらいが手数料収入であり、無料化はそれなりに胆力のいる話だ。 だが、言った手前やるしかないはずだ。メディアから楽天証券はどうするのかと聞かれて、あいまいに答えていたが、うちは最初から(無料化を)やる気だった。 ――当時、楽天証券は上場を目指していましたが、無料化は収益減となるため、その影響がとりざたされました。 ◆相手がやるならやるしかない。上場はなるようになる。競争にならなければ上場しても競争に勝てない。そういった覚悟もあり、手数料無料化は昨年10月から始まったが、その半年前から内部的には無料化の意思決定をしていた。 ◇無料化で他社から顧客が集まる可能性 ――手数料無料化の業績への影響は。 ◆手数料を無料化すると何が起きるのか。無料化した2社に顧客が他社から集まってくる。これまでも2社で手数料引き下げ競争をしてきたが、手数料を下げると他社からや新規も含めてお客様が集まってきて業績が回復する。今回は(収益の)下げ方が尋常ではないが、1~2年くらいのうちには十分補ってあまりあるお客様が集まってくるだろう。 SBI証券にも読みがあるだろうし、僕も感覚的にはわかる。しばらくつらいだろうが、無料化をすれば絶対に成長できると思ったのでやることにした。【聞き手=山口敦雄】 ◇<略歴> 楠雄治(くすのき ゆうじ)1962年11月生まれ。広島大卒。86年、日本ディジタルイクイップメント(現日本HP)入社。A.T.カーニーを経て99年4月にDLJディレクトSFG証券(現楽天証券)入社。2006年10月、楽天証券社長。22年10月、楽天証券ホールディングス社長に就任し現在に至る。