村上春樹「小説家である村上さんが夢を見ないというのは当然のことなんです」と臨床心理者の河合隼雄さんに言われた理由
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。4月28日(日)の放送は「村上RADIO~村上の世間話4~」をオンエア。好評の「村上の世間話」シリーズ第4弾は、クスッと笑える“世間話”を、村上DJが選曲したグッドミュージックとともにお届けしました。 この記事では、寝ているときに見る「夢の話」について語ったパートを紹介します。
◆Prelude「After The Goldrush」
イギリスのボーカル・グループ、プレリュードがニール・ヤングの「After The Goldrush」を歌います。 僕は夢ってほとんど見ないんです。あるいは見ているのかもしれないけど、どんな夢だったか、目が覚めたときにはほとんど内容を覚えていません。短いバラバラな断片しか思い出せないし、それもすぐにどこかに消えてしまいます。夏の午後の打ち水みたいに……。長くまとまった鮮やかな夢を見ることって、僕の場合まずありません。 一度、心理療法家の河合隼雄さんと食事をしながら四方山話(よもやまばなし)をしているときに、たまたま夢の話になりまして、「そういえば僕はほとんど夢って見ないんです」と言ったら、河合さんはうんうんとうなずいて、「ああ、それはね、当然のことなんですわ。小説家である村上さんが夢を見ないというのは」と言われました。で、そのときは何かあって、話がそこで終わっちゃったんですが、あとになって「うーん、その理由をちゃんと聞いておけばよかったな」と思いました。なにしろ河合隼雄さんは夢の分析の世界的権威ですからね。 小説家である僕が夢を見ないのはなぜ当然のことなのか? 小説を書いていないときにもなぜ夢を見ないのか。次に会ったときにうかがっておかなくてはと思っていたのですが、残念ながらほどなく、河合さんは病を得て亡くなられてしまいました。だから僕が夢を見ない理由は、未だに(いまだに)謎のままになっています。どうしてなんでしょうね? * 番組では他にも、近所をジョギングしているときにある動物に遭遇したときのエピソード、学生時代の夏休みに一人旅をしたときの思い出などについて語る場面もありました。 (TOKYO FM「村上RADIO~村上の世間話4~」2024年4月28日(日)放送より)