住宅街殺人、無実訴え6年 49歳男に懲役16年を突き付けた「袋小路のセンサーライト」
「車の音で隣人の帰宅を察知し、嫌がらせを警戒して玄関前で見張りを始めた。崔さんの車のブレーキランプが駐車場内で点灯したのを見たが、降車しないので体感として5分ほどで家の中に戻った。その間に犯人の姿は見なかった」
ドラレコ映像から、女性宅のセンサーライトの1回目の点灯は、崔さんのブレーキランプの点灯から約1分40秒後だったことが裏付けられている。
これを踏まえ、被告の供述が真実だと仮定すると、被告の「見張り」中に、「犯人」は隠れる場所が乏しい袋小路周辺にいて、何らかの動作で隣家のセンサーライトも反応したのに、被告は不審人物に全く気付かなかったことになる。さらにセンサーライトは17分足らずで再度点灯したため、「犯人」は被告に見つかるリスクを考慮せずに再び袋小路に現れたことになる。
地裁は「このような想定はあまりに不自然不合理で現実的にあり得ないと言わざるを得ない」と言及。隣人トラブルによって住宅ローンが残る中で転居の検討を余儀なくされていたことも考慮し、「被告を犯人とみるほかない」と結論付けた。
■有罪認定の「穴」指摘も
弁護側は判決を不服として控訴する方針だが、元裁判官で法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は、控訴審でもセンサーライトが争点になるとみる。
ライトの2度目の点灯も事件発生前のため、点灯はいずれも「被告が袋小路から出た際」となり、犯行後を含めて被告が自宅に戻ったことを示す点灯は一度もなかったことになる。
地裁は「駆け足であれば点灯しないこともある」と説明したが、水野氏は「ドラレコとライトを有罪の決定的な証拠とする以上、被告を犯人とする動きとライトの点灯が完全に合致しているわけではないという点は相当の『穴』になる」と指摘する。(西山瑞穂)