家族のケアを担う「まち」を作る北九州の挑戦、若者たちが引き付けられる理由
福岡県北九州市にあるNPO法人「抱樸」(ほうぼく)が12月2日まで1億円のクラウンドファンディングを募っている。「希望のまち」と名付けられた複合型福祉施設を建設するためだ(創設の経緯は「北九州・暴力団本部跡地に福祉施設が建つ意義」)。希望のまちのプロジェクトには20代、30代の若者が多く携わっている。なぜ彼らはこの活動に魅力を感じるのか。 【写真】11月5日、福岡市内で開かれた抱樸のシンポジウム ■家族のケアを担う人がいない 2026年中の開設を目指す「希望のまち」は3階建ての施設。生活困窮者のための救護施設から、子どもや家族を支援する相談室、デートで使えるようなおしゃれなレストランまで、地域の誰もが気軽に出入りできる「まち」作りを目指している。希望のまちを設立する抱樸は、1988年から36年間ホームレス支援を行ってきた。抱樸の理事長、奥田知志さんは希望のまちは「家族機能の社会化」だと表現する。
「1980年代、一番多い家族の形は両親と子どもの核家族で、全体の約4割を占めていましたが、現代ではこの形の家族は約25%にまで減った。一方、最も多いのは単身世帯で、38%に上ります。単身では『今日は顔色が悪いね』と言ってくれる人がいない」 これまで産業化社会は、家族にケアの役割を担わせてきた。企業の働き手である夫の体力の回復は専業主婦だった妻が担った。将来の働き手である子どもの養育もまた、多くが妻の仕事だった。
だが、家族が多様化し女性の就労は当たり前になったことで、ケアの役割を果たす者が十分にいなくなった。家族のケアの力が痩せ細っているのだ。それにもかかわらず、ケアは家族が行うべきだとの考え方は今も根強い。単身者の場合、地域とのつながりが希薄になれば、途端に孤立し、相談相手がいなくなってしまう。 頼りたくても誰にも頼れない人が増えている。ホームレス支援を行ってきた抱樸のこれまでの活動は、炊き出しや夜のパトロールで様子を尋ねるなど、困窮しまたは孤立状態にある人へのケアを担ってきた。