【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第21回「対決」その1
力の入った攻防の末、日馬富士の放った右からの投げがこの激闘の明暗を分けた
令和2年当時、白鵬も、鶴竜も青息吐息の状態で、とても両者相譲らず、がっぷり四つの状態とはいえませんが、大相撲の歴史を紐解けば、ライバル同士が激しく歯を剥きあう、対決の歴史でもありました。 戦後も、栃若に始まって、柏鵬、北玉。 最近も、貴乃花、曙の貴曙、白鵬、朝青龍の青白など、なつかしく思い出されるファンも多いんじゃないでしょうか。 でも、そんな大相撲史に名前が残るような名力士、大力士だけでなく、多くの力士たちがさまざまなかたちで対決を繰り広げています。 そんな土俵の片隅で火花を散らしあった珍対決集です。 ※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。 【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第6回「切れる」その1 横綱を目指す気迫 力士たちの負けん気は相当なものだ。それが高まればこんなところまで競い合う。平成24(2012)年秋場所は、それまで15場所も一人横綱を務めてきた白鵬(現宮城野親方)に、大関日馬富士が台頭し、激しく肉薄。場所後、ついに横綱に昇進して並びかけた場所だった。 この白鵬と、前の場所、全勝優勝して綱取りに王手をかけた日馬富士との競り合いにはファンも手に汗した。11日目を終えて、またもや土つかずの日馬富士を白鵬が1差で猛然と追い上げ、一歩もあとに引かない様相を呈したのだ。 両者のつばぜり合いがいかに激しかったか、12日目の決まり手によく表れていた。まず先に土俵に上がった日馬富士が関脇の豪栄道を強烈なモロ手突きで豪快に突き倒した。まさに「気迫あふれる」という表現を絵にかいたような相撲で、 「一日一番、しっかり集中して自分の相撲が取れている。今日も、自分の相撲を取り切ることだけを考えた」 と語気に力をこめた。 すると、あとから登場した白鵬も、負けじと新関脇の妙義龍を左から張って右からカチ上げを、それも顔面に見舞った。この合わせ技で妙義龍は脳震盪を起こし、そのまま撃沈。フラフラしながら支度部屋に戻った妙義龍は、 「大丈夫です」 と話したものの、着替えもそこそこに大事をとって病院に向かった。この激しい相撲の決まり手もまた、同じ突き倒しだった。勝った白鵬は、 「目の前で(日馬富士を含む)3大関がすごくいい相撲を取っていたので、こっちも気合が入った」 と話したが、明らかにその目は日馬富士に向いていた。 ここまで意識しあっているのだから、お互いに途中で落とすはずがない。闘いは千秋楽の両者による直接対決までもつれ込み、右四つの力の入った攻防の末、日馬富士の放った右からの投げがこの激闘の明暗を分けた。勝った日馬富士は、 「神さま、勝利を与えてくれてありがとうございます」 と話し、勝負が決したあと、額を土俵にこすりつけた。ちなみに、この決まり手は下手投げだった。 月刊『相撲』令和2年12月号掲載
相撲編集部