「従業員をねじ伏せることで達成感」で…40代、50代の男性が「カスハラ」に走るワケ
「要するに理詰めで相手を説き伏せるタイプのクレーマーです。あくまで自分の価値観が正しいと信じていて、絶対に曲げない。相手に納得させるまで、ずっと理詰めで責め続ける。承認欲求の強い人に多く、一番面倒なタイプと言われていて、最近は特に問題になっています」 理詰めで責めるタイプのクレーマーなどは特に、同じような条件と環境が整うとカスハラを繰り返しそうだが……。 「心理学で学習効果と言いますが、従業員をねじ伏せることで達成感を得たといったプラスの感情を学習すると、脳が喜んでまたカスハラに走る可能性はあるでしょうね。 ただ、たとえ常習犯のような人でも、カスハラをしたことで職を失ったとか離婚されたといった大きな痛手を負ったり、あるいは警備員や警察に通報されたりすれば、さすがに控えるのではないかと思います」 ◆防止条例ができてもカスハラはなくならない? 日本の企業、特にサービス業では「お客様は神様」の精神が浸透している。企業の顧客ファーストの姿勢はカスハラを増加させる一因でもあると、池内教授は分析する。 「1960年代の前半までは、消費者は圧倒的に弱者だったんです。それで1968年に消費者保護基本法が制定され、日本の消費者政策の基本理念が定められました。 その後、モノが溢れる時代の中で、企業は多くのお客に商品を買ってもらうためにお客様第一主義に徹します。その姿勢が、消費者の期待値を上げました。 消費者はもはや、保護する対象ではなくなっています。でも依然として保護するような法律があるので、お客の力がどんどん強くなっているのが現状でしょう」 企業でカスハラが深刻化していることから、東京都はカスハラの防止に向けた条例の制定を目指す方針のようだ。防止条例ができたとして、効果は期待できるのだろうか。 「カスハラが問題になっていることを社会に知らしめる上では、ある程度の効果はあると思います。あわせて、カスハラに該当する具体的な行為や態度がガイドラインとして示されると、企業側も対応しやすいのではないでしょうか。 ただ、条例ができたことによって即カスハラがなくなるかというと、やはり顧客第一主義が根強く浸透している日本社会では難しい気がします。消費者がもう少し相手の立場に立って考えることができれば、カスハラが起こりにくくはなるかもしれませんが」 しかし、今は全てがマニュアル化されているため、従業員も客の立場に立って考えることができなくなっている。 「家電量販店はクレーマーの温床と言われますが、説明がぞんざいだったり上から目線だったりという従業員の態度が、カスハラを招く原因になっている場合もあります。店員に上から目線で説明されると、お客だってプライドがあるので面白くない。そんなちょっとしたコミュニケーションのズレから、こじれる可能性もなくはないわけです」 販売、営業、サービス業が「人」相手の仕事である以上、カスハラがなくなることはなさそうだ。 「でも、未然に防ぐことはできると思います。カスハラに発展させないためには、このお客はどうしてこんなに怒っているのか、なぜ何度もクレームの電話をかけてくるのか、根底に何があるのか理解しようとする姿勢が必要。相手に寄り添ってコミュニケーションを取ることが大事です。 カスハラ防止条例をつくって罰則を設けても結局、外からの働きかけによる行動変容は長続きしません。やはり、社会全体で変えていこうという内発的動機付けを高めるほうが、継続性はあるような気がします」 池内裕美(いけうち・ひろみ)関西大学社会学部教授。関西学院大学大学院商学研究科、同大学院社会学研究科修了。博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、’11年より現職。専門は社会心理学、消費心理学。研究テーマは、過剰なクレームやモノのため込みなどの逸脱的消費者行動。主な著書に『消費者行動の心理学:消費者と企業のよりよい関係性』(北大路書房、共著)、『消費者心理学』(勁草書房、共編著)など。 取材・文:斉藤さゆり
FRIDAYデジタル