運転免許証の自主返納制度20年 頭悩ます増え続ける高齢者ドライバーの対策
少しずつ運転免許自主返納をしやすい制度に
そうした高齢者対策として、政府は1998年に道路交通法を改正。運転免許を自主的に返納できる制度を新たに創設しました。 しかし、制度創設当初、自主返納は使いづらい制度でした。 運転免許証は、身分証明書として利用されることが頻繁にあります。ほかにもパスポートなどが写真付きの公的な本人確認書類として利用されることはありますが、やはり運転免許証が一般的です。身分証明書の提示を求められる場面はたびたびあり、運転免許証を返納してしまうと、そうした場面で困るのです。そのため、「自動車の運転はしないけれど、免許証の更新はする」という高齢者も一定数いました。進んで免許を返納するドライバーはごくわずかだったのです。 自主返納を促すべく、政府は免許証の替わりとして使える「運転経歴証明書」の交付を2002年から開始しました。2012年には「運転経歴証明書」の有効期限を無期限に改めています。自主返納制度がスタートしてから20年。一歩ずつですが、運転免許は自主返納をしやすい環境が整えられてきました。
返納促進のため……宅配料金割り引き、定期預金の金利優遇
東京や大阪といった都市部では、鉄道やバスなどの公共交通インフラが十分に整備されています。自動車がなくても、移動に不便を感じることはありません。都では、免許の自主返納率が高くなっているのでしょうか? 「公共交通が不便な地方に比べて、鉄道やバスが充実している東京圏の方が運転免許の自主返納率が高いという数字的な裏付けはありません。むしろ、都民の方が消極的だとも言われています。理由は判然としませんが、“たまにしか運転しないから、危険ではない。”“わざわざ返納しなくていい”“鉄道やバスが充実している東京だからこそ、鉄道やバスではどうしようもないときのために免許を持っていたい”という気持ちが強いようです」(同)。 こうした状況を踏まえ、都は自主返納を呼び掛けるイベントを開催したり、街頭の大型ビジョンで自主返納制度の周知に努めるなどしています。また、民間企業とも連携。コンビニからの宅配料金を割り引く制度や信用金庫では定期預金に優遇金利を設定するといった、自主返納を促す取り組みをしています。 他道府県の自治体では免許の自主返納を促すために代替の足となるバスの無料回数券を配っています。自動車免許の返納は、移動手段の喪失です。それを補う措置ですが、都では、そうしたバスや鉄道での優遇がありません。 「都も都バスや都営地下鉄などを運行しており、70歳以上の都内在住者にはそれら割安料金で利用できるシルバーパスを配布しています。シルバーパスは高齢者の移動手段を補助するような措置とえいます。ですから、都では免許自主返納者に公共交通で特典をつけるようなことはしていません」(同)。 公共交通料金の乗車券配布やパスの購入割引は、免許の自主返納を促す面が確かにあります。しかし、そうした自主返納支援策は一回限りのものが多く、継続的な支援にはつながっていません。 75歳以上のドライバーは、今後も増えることが想定されています。最近では技術の向上によって安全運転支援システムを搭載した先進安全自動車(ASV)が増えています。ASVに切り替えたからと言って、交通事故を完全に撲滅することはできません。しかし、安全性が向上することは間違いありません。現行では、エコカーなどに購入補助制度はありますが、ASVに購入補助はありません。こうした金銭的な補助を検討する余地はありそうです。 高齢者ドライバーをめぐる問題は、簡単に解決できない問題です。地方自治体・警察・公共交通事業者・自動車メーカー・福祉系団体を悩ませる問題としてくすぶっています。 小川裕夫=フリーランスライター