経験を力に 綱啓永が決めていること「良いお芝居をするしかない」
根底に流れる、作品を良くしたい想い
ドラマ『366日』は、綱にとって初の月9出演作となった。さきほどの病室のシーンで感じ取ったというプレッシャーになぞらえて「月9出演に対するプレッシャーは?」と水を向けると「ありませんでした。ただただ嬉しかったです」と即答。 「正直『俺が出てもいいのかな』って気持ちは、一瞬だけありました。でも、実際にいま和樹を演じていて思うのは、とにかく『この作品を、もっともっと良くしたい』に尽きるんです。キャストのみんなとご飯に行ったときも『私たちが良いと思うものをつくろう』って、熱い話をしました。自分が携わっている以上、自分がこの作品にできる精一杯のことをしたい。それって、僕にとっては良いお芝居をするしかないんです」 だから、プレッシャーを感じるのは月9で主演をやるときですかね、と真面目に語ったあとは必ず外す。しかし、月9主演も遠くはない未来なのでは、と問いかけると、ふたたび真面目で真摯な一面を覗かせる。 「うーん……難しいですね。その質問に対して簡単に『そうですね!』とは、まだ言えない自分がいます。もちろん月9主演は憧れで目標ですけど、心の奥底では、まだまだその地点に達していない、そんな発言をするまでにも至っていない、という感じです。でも、いつかはやれたらいいな」 25歳。ちょうど20代の折り返し地点に立っている綱は、俳優として初のドラマ出演を果たしてから6年目を迎えている。テレビ朝日系列『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(2019)で特撮の現場を経験し、TBS系列ドラマ『君の花になる』(2022)でドラマ撮影とボーイズグループ活動を並行させた綱。注いできた労力と時間は、彼に地に足の着いた自信と、実力を誠実にまなざす視座を与えたようだ。
和樹は「過去の自分を思い出しながら演じている」
『366日』では、制服を着た高校時代の和樹と、12年経った現代の和樹、両方を演じている。「二つの時間軸を行き来するお芝居は初めてなんですけど、そこまで苦労はしてません。……って、こんなこと言っちゃうと『コイツ舐めてんな』って思われますかね!?」と慌てる様が微笑ましい。 「制服を着て現場に入ったら、不思議と高校時代の和樹になる。そして、スーツを着てメガネをかけて、髪型をピシッと七三に分けたら、12年経った現在の和樹になる。こういった外見というか、ヘアメイクと衣装のおかげで役作りができていると、僕は思っています。いろいろな面を視聴者の皆さんに見ていただけるのが、嬉しいです。あとやっぱり大切なのは、アリスさんや(眞栄田)郷敦をはじめ、ほかのキャストさんと心を通じ合わせることですかね」 まだまだ制服を着てお芝居をしたい、と過去のインタビューでも口にしていた綱。「僕、自分では違和感がないと思って制服を着ているんですけど、どうですか? 違和感、ないですよね?」と朗らかに話す。制服卒業のタイミングについて聞くと「30歳、いや、29歳かなあ……」と迷う場面も。 「本当にここ数年、インタビューなどで聞かれたらずっと『まだまだ制服着たいです!』って言っていて。いつまで大丈夫かな、できることなら30歳?」 一つひとつの質問に、時間をかけて真摯に考え、綱らしい言葉で回答するのを見ていると、ファンが増加中なのも頷ける。取材現場に登場した瞬間から、場の空気を変える元気な挨拶をした様子から考えても、さぞ綱自身の学生時代は、絵に描いたような青春を楽しんでいたのだろうと思ってしまうが……。 「小学校のころとか、学生時代は控えめな性格で、自分からガツガツ前に出ていくタイプではなかったです。後ろで大人しく笑っている子だったなあ。中学校ではサッカー部に入ったので、そのおかげで少し明るくなれたかな? と思うんですけど、本来の僕は静かですよ。和樹を演じているときは、そんな過去の自分を思い出しながら演じているかもしれません」 だからなのか、綱が『366日』でもっとも共感するキャラクターは、坂東龍汰演じる小川智也なのだとか。明るく陽気に振る舞っているけど、本当は悩みを抱えて人知れず苦しんでいる……。つらいけれど笑顔で、仲間の前ではテンションで乗り切り、本当の姿は見せない。「僕自身も、どこか似た生き方をしてる気がします。それが悪いってわけではないんですけど」と話す綱の、いつもとは違った表情が、和樹を通して想像できる。