山西利和選手に聞く、歩くを競う「競歩」という種目の奥深さ
歩くことに何かを見出しているという人たちにその理由や歩き方を聞いてみた。奥深さや楽しみを知れば、もっと長く、もっと頻繁にウォーキングに出かけたくなるはず。今回は山西利和選手に伺う「競歩」について。 [画像]山西利和選手
競歩という種目を通して動作の解像度が高くなりました
走って近づいてくる人がいる、と思ったら日本競歩界のエース、山西利和さんその人だった。なにせ競歩のスピードはキロ4分弱、マラソンのサブスリーランナーのスピードと同等。超速いウォークなのだ。 「競歩に出合ったのは高校生のとき。中距離競技をやってたんですが、カラダの使い方を一から考えたことがなかったんです。 ところが競歩には徒歩と違う動きとスピード感、しかもルールまである。新しい動作を獲得していく作業に興味を覚えました」 ルール1は両足が同時に地面から離れてはいけない。ルール2は接地の瞬間から脚が地面と垂直になるまで前脚の膝を曲げてはいけない。これを厳守しながらより速く歩くためには、複雑な動作が必要。 「着地時に爪先を起こすときには脛の前の前脛骨筋、膝関節を伸ばす大腿四頭筋が働きます。これらはブレーキの動きです。その直後に大臀筋やハムストリングスといったアクセル役の筋肉を働かせる。 止めると進むを一緒にやっているような競技なので、その2つがケンカしないよう両立させなければいけない。ひとつひとつの動きを分解して、反復練習をして試行錯誤しながら組み合わせていくんです」 ランのように地面反力を利用せず自力でガシガシ進んでいく選手もいれば、地面反力と自力の調和に磨きをかける山西さんのような選手もいる。試行錯誤の中でそうした動きをアップデートさせていく。 「競歩を通してカラダの動きの解像度が高くなったなと思います。AとBしかなかったところにCという選択肢が増えて動きの精度がさらに上がる。 今はそれに加え、パリ・オリンピックに向けて他の競技者より頭ひとつ上に行く努力をしています」
Profile
山西利和(やまにし・としかず)/競歩選手。愛知製鋼所属の京大卒頭脳派ウォーカー。2019年世界陸上で優勝、東京オリンピックでは銅メダルを獲得。22年には世界陸上で日本人初の2連覇を達成。
取材・文/石飛カノ(初出『Tarzan』No.866・2023年10月5日発売)