3打席連続本塁打記録を持つ“伝説の人“阪神LT掛布雅之氏は史上初の球宴中止に何を思う…「寂しいが仕方ない」
球宴前に、3割2、3分をキープしていた打率が急降下して2割8分台になっていた。ファン投票でも票が伸びていた(最終的には三塁トップはヤクルトの角富士夫)。「2割台では申し訳ないし恥ずかしい。3割でいきたい」と、連日、甲子園の室内練習樹で、遠井吾郎打撃コーチとマンツーマンで、早出特打ちを繰り返し、ついに3割に乗せてオールスターへ。 「やっと調子を戻した。オールスターで本塁打を狙いにいって崩したくない。できれば出たくないな」が本音だった。 広島、甲子園で連戦、移動日が1日あって第3戦が後楽園だったが、若気の至りで、前日に大阪の北新地で朝まで飲み、当日、新幹線移動して、3打席連続本塁打をやってのけた。 記憶に残っているのは、チームに再合流したときに、当時の監督だった”クマさん”こと後藤次男氏にかけられた「ありがとう」の言葉だったという。 「チームはずっと最下位でね。クマさんは、『こんなチーム状況の中、明るいニュースを届けてくれてありがとうな』と言うんだ。責任を感じたね」 球宴での3打席連続本塁打での自信と、ミスタータイガースとしての責任と称号を手にした掛布氏は翌年、48本塁打で初のタイトルを獲得している。 「時代と共にオールスターのあり方は変わってきた。とくに2005年から真剣勝負の交流戦が始まり、オールスターでしか見られない緊張感や特別感はなくなった。僕らの時代は、実力のパ、人気のセと言われていて、球宴も勝ち負けにこだわっていた。でも、全力でぶつかるオールスターでドラマが生まれるのは、今も昔も変わらない。昨年は、ウチの近本光司がサイクル安打を打った。大谷翔平も、当時、日本最速となる162キロを鳥谷敬に投じた。オールスターは成長の場所。近本もオールスターのサイクルをきっかけに後半戦に失速せず飛躍した。選手にとって、その舞台がなくなったのは残念だろうが、今年はピンチをチャンスに変えるしかない」 球宴を知る掛布氏ゆえの重たいメッセージである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)