ケモミミ× 香港×サイバーパンクな少女育成ADV『アニマロイドガール』の「刺さる人には絶対刺さる」魅力を伝えたい。制作者たちの「スキ!」が詰まった剥き出しの作家性を刮目せよ【BitSummitDrift】
「BitSummit Drift」でとんでもないゲームを見つけてしまった。 少しずつケモノへと変貌していく少女、九龍城砦をモチーフにした怪しい街並み、薄闇に光る電飾たちが作り出すサイバーパンクの世界観……。 『アニマロイドガール』画像・動画ギャラリー もしあなたがこの中のどれか一つでも好きなら、『アニマロイドガール』は最高のゲームになるかもしれない。 本作はインディゲーム開発サークル「パンドリ丼」が手掛けるADVゲームだ。ヒトからケモノへと変わりゆく「アニマ」化が進行する少女と暮らし、様々な出来事を通じて少女の成長を「見守る」ゲームとなっている。 2024年7月19日~21日にかけて開催された日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit Drift」では、筆者も本作のデモ版をプレイ。実際のゲームプレイがどのようなものだったか、そして本作の持つ「独特の質感」についてもこの記事でお伝えしたいと思う。 文/植田亮平 編集/りつこ ■アンニュイなケモ耳少女を育成! まずは本作の目玉であり全てでもある、この少女について簡単に説明しよう。 少女は「アニマ」という非常に珍しい人種に該当する。「アニマ」はヒトの姿から成長するにつれてケモノ化していき、最終的には完全にケモノの姿になってしまうという数奇な運命を背負っている。 その彼女を研究し、共に暮らす中で成長を見守っていくことが、プレイヤーに課された役割である。 プレイヤーが行えるのはポイント&クリックで彼女を調べたり、彼女の問いかけに応えたり、「その日に何を行うか」の選択肢を選んだりと多岐にわたる。ベースとしてはポイントアンドクリック型のADVに、選択肢の要素が加わっているものと言える。もちろん“なでなで”も可能だ。 プレイヤーの行動に応じて、少女の性格がどれほど変化するのかは分からない。いっぽう、彼女の姿はプレイヤーの選択に応じてウサギ、ネコ、オオカミなどに分岐して変化していくようだ。マルチエンディングに対応しているので、リプレイ性の高いゲームになることが予想される。 ゲーム全体の説明はこのくらいにして、ケモ耳少女の可愛さについてもお伝えしよう。何せ本作はケモミミ少女を愛でるゲームなのだから。 少女のグラフィックはLive2Dで制作されており、そのアニメーション挙動は近いところで言えば『アイドルマスターシャイニーカラーズ』のような質感となっている。各部位がアニメのように滑らかに動くので非常に可愛らしく、制作者の癖も感じられる仕上がりだ。 また、画面全体を使った演出にもこだわりを感じる。特にデモ版をプレイしている時には、選択肢を選んでいる最中に「画面の横からニョキっと顔を出す」猫ちゃんのような仕草をしてくれた。これにはもうメロメロである。 デモ版を遊んだ範囲では、少女はジト目+無口なクーデレキャラというコテコテなキャラ造形となっている。しかしゲームの展開や世界観を諸々込みで考えた場合、これがおそらくベストなキャラ設定であることは私にも感覚で分かる。たまらんですはい。 もちろん、こだわりが見られるのは彼女の可愛さだけではない。場面転換のシーンでは3Dで作られた部屋からほとんどシームレスにムービーシーンへ繋がるなど、インディタイトルのADVとしてはかなりリッチな仕上がりとなっている。 ■ミニマルなスキ、開発者のセンスが詰まったアドベンチャーゲーム 全体を見渡してみると、本作はインディーのアドベンチャーゲームとして理想的なタイトルに感じられた。どう理想的かと言うと、それはもっぱら「好きなものが詰まっている」ということである。 といっても、それは単に「私が好きなもの」という意味ではない(猫耳も九龍城も好きだが)。制作者の好きなものが詰まっているのだ。このゲームには制作者(たち)の”癖”がとにかく詰まりまくっている。 見よ、香港の雑多なビル群を見上げる銀髪ケモミミ少女の後姿を。UIや背景に映る機械のデザインに見られる。サイバーかつスタイリッシュな美的センスを。 こういった剝き出しの作家性を体験できることが、インディADVゲームの魅力のひとつではないだろうか。そういった観点から見ると、本作の端々に見られる”質感”は非常に洗練されている。 ストーリーも同様だ。「少しずつケモノになっていく少女と過ごす」と聞くと、最後に待ち受ける結末から逆算して、少々ダウナーな物語を想起してしまう。しかし、試遊した本作のゲームプレイ中の体験は至って、日常的で平和なものであった(プレイする前に私が連想したのはアニメ・『SoltyRei』的な物語の構造であった)。 もちろん筆者は序盤だけしか体験していないので、本作の物語の全貌はさっぱり想像もつかない。ただ、試遊で窺えた悲劇的な設定を日常で覆うストーリーテリングも、本作が「制作者の好きなもの」を重視しているからこそ、採用されたスタイルだと感じた。 本作は設定からしてかなり尖った作品であり、ビジュアルや世界観も独特である。しかし、刺さる人には「一生モノのゲーム」となるポテンシャルを確実に秘めている。 最後に、本作の音楽面について触れておこう。本作のコンポーザーを務めるのは『逆転裁判』シリーズや『グランデイア』などの名作に携わってきた岩垂徳行さんである。本作のデモ版でも、ピアノの旋律が織りなす儚くも美しい音楽を体験することができた。 壮麗な香港の街並み、可愛らしくいじらしいケモミミ少女、サイバーパンクな世界観、そして悲しさと温かさを同居させたシナリオ、それら全てを美しいピアノの音色が包み込み、ADVとして最高の体験を形作っている。 本作を手掛ける「パンドリ丼」の公式Xアカウントではトレーラーやゲームプレイをはじめ、さまざまなゲーム内要素を画像・動画付きで紹介している。どのような雰囲気のゲームか知りたい場合は、紹介されている情報を当たってみると良いだろう。 「こういうのが好き」と制作陣のセンスに惹かれた方には、間違いなく最高のゲームであるはずだ。
電ファミニコゲーマー:植田亮平,りつこ
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