選手から漏れる悲痛な叫び。サッカー日本代表が抱える根本的な問題「僕に決定権は必要ない」【アジアカップ2023現地取材】
●敗戦に戸惑いつつ試合を振り返る守田英正 サッカー日本代表は3日、AFCアジアカップカタール2023準々決勝でイラン代表と対戦し、1-2で敗れた。グループステージ第2節以来の先発となった守田英正は、28分に貴重な先制ゴールを決めた。しかし、結果は逆転負け。試合後には悲痛な思いとともにチームが抱える根本的な問題に触れている。 【アジア杯順位表・トーナメント表】AFCアジアカップ カタール2023 「苦しい展開の方が長かったという印象で、ボランチの僕はボールを持ったうえで落ち着かせたかったというのと、ボールを持てなくてもある程度選択肢を絞らせたうえで次のことを予測して、チームとして守備ができるような形をもっと作っていかないといけない」 守田は敗戦後のショックを引きずるように神妙な面持ちでそう述べた。ゴールを決めたことについてはそっちのけで、チームが抱える問題を、言葉を選びながら話していた。 イラン代表戦では、後半は相手のロングボールを中心とした攻撃で自陣に押し込まれ、セカンドボールを拾われ続けた。タッチラインに逃れるのが精いっぱいで、その後はロングスローやコーナーキック、クロスから何度もゴールを脅かされている。 しかし、ベンチから有効な解決策が提示されることはなかった。ピッチにいる選手たちは試行錯誤しながら改善の糸口を探していたが、ついにそれは見つからず。PK献上という形で我慢という堤防は決壊してしまった。苦しみ続けた守田は身をもって、チームが抱える問題を感じていた。 ●「誰のせいと言い切れないのが弱み」 以前守田は「どこまでオーダーされているのかによる」と前置きしたうえで、「自分の役割がこうと決められたらそれに集中しますけど、代表チームでの僕の役割は、あまり穴をあけないとか、バランスを見るとか、そっちに寄ってしまいます」と自身の役割を認識していた。「いろいろ見えている分、気になってしまう」と率直な思いを明かし、「それで評価が下がるとしてもそれは別にいい」と割り切っていた。 サッカーはチームスポーツである一方で、選手ごとに評価が下されるという難しい側面もある。チームが抱える問題にいち早く気づく選手は、それをどうにかしようとして試行錯誤した結果、ある種、それが異質な動きに見えてしまうことがある。それが今大会の、そして、森保ジャパンにおける守田英正という選手だった。 「僕は一ボランチとして、プレーヤーとして、チームのために考えないといけない。思考を止めることはないですけど、そこの決定権が僕にある必要はないのかなと。最後の微調整だけでいい。担っているものが重荷には感じないですけど、もっと指示が欲しいですね。いろいろ……」 守田には戦況を冷静に見極めながら自分に求められる役割を遂行できる能力がある。ベンチからの指示があればその負担は軽減されるのだが、このチームにはそれがない。「何かが足りないのか、やろうとしていることが多くて、捨てていくべきなのか、1つに絞っていくべきなのか。わからないですね」と言うように、守田の役割はキャパシティを超えてしまっている。 ●守田英正の悲痛な叫び「個で負けましたと言うのは逃げ」 異なるチームで戦う選手たちが短い期間で歩幅を合わせなければいけない代表チームだからこそ、守田は軸となる方針を希求し、「チームとしてやろうとしているスタイルがあったり、チームの哲学があったり、そこに差は必然的に出てくる」と言う。そういったベースがないと「これをしなかったこいつが悪いという深堀りができない。これが突き詰められない原因というか、どこが悪くて、誰のせいと言い切れないのが(日本代表という)チームの弱み」と言い切る。 チームとしてのベースが曖昧だからこそ、うまくいかなかったときの解決策もない。選手たちが試行錯誤して最適解を見つけ出す必要があるのだが、そこまで選手に任せるべきなのだろうか。ボトムアップといえば聞こえはいいが、意見を吸い上げているうちに時計の針は進む。対応に時間がかかればそれだけ穴は大きくなる。レベルが上がれば上がるほど、その小さな穴が致命傷になることを、守田をはじめとする世界最高峰の舞台で活躍する選手たちは知っている。 チームの抱える問題を守田なりに解釈しつつも、最終的には個の問題に帰着させた。「捉え方ですけど、僕がもっと当たり前にターンして顔を上げてボールを蹴れたらおしまいなんで」。ただ、それだけでは限界があるのも事実。サッカーは戦力の足し算で勝敗は決まらない。スター選手を揃えれば勝てるのであれば、ブラジル代表はもっとFIFAワールドカップを制しているだろう。 「そういう選手が世界のトップには当たり前にいるし、そこは真摯に受け止めないといけない」と守田が言うように、個のレベルアップが必要であることに変わりはない。一方で、「チームとしてどう動かしていくかというのは明確にしないといけないですし、それがないのに個のところで負けましたと言うのは逃げだと思う」と問題の本質を指摘している。 言葉を慎重に選びながら、守田自身が感じるチームの問題を明かしてくれた。自身の評価を二の次にしてまでチームのために動き続けた守田の悲痛な叫びを、日本代表は無駄にしてはいけない。 (取材・文:加藤健一【カタール】)
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