土砂乗り越え自宅へ 珠洲・大谷地区
海に迫る山々は至るところで崩れ、狭い平地に並んでいた家々と道路は大量の土砂に飲み込まれていた。元日の地震で一時孤立状態となった珠洲市大谷地区は、今回の豪雨で再び外部との往来が遮断された。23日までに道路は仮復旧したが、山間部ではなお数人が救助を待つ。「地震の時よりひどい。元に戻れるのか」。住民の表情には一様にむなしさが浮かんでいた。 氾濫した大谷川の右岸にあり、21日には住民や復旧関連の業者ら約90人が避難した大谷小中。22日夕に道路が仮復旧した後は地域住民ら15人が身を寄せていた。 左岸のような大規模土砂崩れは免れたものの、学校周辺も一面土砂に覆われ、道路も民地も分からない。避難者の一人、増井誠二さん(88)は「みんなのために何とかせんなん」と、学校と自宅の間に流れ込んだ土砂を踏み固め、倒木をチェーンソーで切って「道」を作った。 23日、中流域の茗ケ谷地区に住む刀祢田利雄さん(69)がその道に立っていた。21日は地震の避難者に食事を作るため早朝から大谷小中におり、難を逃れた。「地震で準半壊した家がどうなっとるか。見たい」。崩れた道の端やあぜ道、雑木林の中など約1・5キロの「道なき道」を30分以上かけて歩き、たどり着いた。建屋は無事だったが、家の前にも土砂が積もり、冷たい濁水の川ができていた。 数人の住民が取り残されている山間部に入りたくても、幾つもの大きな土砂崩れが阻む。明らかに地震の時より被害がひどい。「大谷は元に戻れるのか。悲しくなってきた」。彼岸花が秋風に揺れる中で、刀祢田さんが力なくつぶやいた。(珠洲支局長・安田哲朗)