「村全体で蛇口が3つだけ」出前授業で中学生が気づいた「当たり前」とは何か
「当たり前って何ですか?」 もし子どもたちからそう聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか。 【写真】頭に水を載せて運ぶ女性の笑顔、ラマダンのお祈り…この土地での「当たり前」 原ゆかりさんは東京外国語大学を卒業後、外務省に入省。在職中の2012年にガーナ北部ボナイリ村を拠点にNGO MY DREAM. orgを設立し、アフリカのビジネスを支えてきた。2015年、外務省を退職後は、NGOの活動と並行し、三井物産ヨハネスブルク支店での勤務、アフリカ企業での勤務を経験。2018年独立し哲学とストーリーのあるアフリカの高品質商品を取り扱うProudly from Africaを運営している。まさに多様な世界を実体験してきた人だ。 2012年から幼稚園から大学まで多くの子どもたちに向け、出前授業や講演活動をしている。 そこで伝えるのはアフリカビジネスや多様性、ダイバーシティ&インクルージョン、キャリア教育や国際理解など幅広い。そんな原さん自身、子どもたちの声からハッとさせられることも多いという。 こどもたちとの授業体験から伝えてもらう2回目は、イスラムや戦争のことに関して、授業で出てきた子どもたちの声と原さんの気づきをお伝えする。
世界地図の見方で気づいたこと
「一番驚いたことは、いままでみてきた地図は日本中心だったと知ったこと」――昨年10月に地元愛媛県の今治明徳中学校2年生を対象に行った「異文化体験講座」に参加してくれた生徒さんが寄せてくれた感想です。異文化、国際理解、多様性などをテーマに講演する際は、「当たり前って何だろう」ということを問いかけながら、まず経度0°緯度0°を真ん中あたりに置いた地図を投影します。日本が真ん中にある地図とは、世界の見え方がずいぶんと違うと思いませんか?
「みんなのおうちには何個の蛇口がありますか?」
家に蛇口が何個あるかと尋ねると、みんな一斉に考え始めてくれます。同じ教室で学ぶ同級生の間でも、蛇口の個数に幅があるんだな…ということを実感した後に、私が2012年から行き来しているガーナ北部のボナイリ村の「村全体の蛇口の数」が3個だと話すと、みんな目をまんまるくして驚いたリアクションを返してくれます。 約2000人で蛇口3個。朝起きたら水洗トイレに行って、洗面所で顔を洗って歯磨きをして……という子どもたちの日常に当たり前にある蛇口は、ボナイリ村の家庭には存在しません。そうなると水は村人みんなで共有する蛇口や、井戸やため池に汲みにいくことになります。近くの水源から水が汲めない時は、遠くまで歩いて重い水を頭に乗せて運んで帰ってくることも珍しくはありません。そんな話をすると、みんなの顔には「かわいそう」という表情が浮かびますが……。 中学生からはこんな声がありました。 ---------- 「私はアフリカには水にアクセスしづらい地域があると聞いて、テレビや新聞で見る苦しそうな人々の生活の様子を真っ先に思い浮かべたのですが、その後に出た笑顔の人々の写真を見て、衝撃を受けました。実際に生活の中で苦しいことや辛いことはあると思うし、その回数は日本に住む私たちよりも多いかもしれません。でもそれだけの生活ではなくて、不便な生活でもたくましく生きがいを見出しながら生きている人がたくさんいるんだと感じました」 ---------- 生活の身近なところの「当たり前」の違いから、言語、文化、宗教、ジェンダー...世界中には様々な人々にとっての「当たり前」が存在しているということを、たくさんの写真や経験を交えながらお話しします。その中でも特に子どもたちが感想文に記してくれることの多いテーマをご紹介しながら、感じていることを綴りたいと思います。