土木が原風景となる時(5)長大橋梁の雄「横浜ベイブリッジ」、クイーン・エリザベス号との邂逅
2014年(平成26年)3月16日、世界を周遊する英国の豪華客船クイーン・エリザベス号(総トン数9万900トン、長さ294メートル)が横浜ベイブリッジを通過して横浜港に入港し、大さん橋国際客船ターミナルに停泊した。掲載画像をよく見ていただきたい。豪華客船が干潮時を狙い、ベイブリッジの直下をくぐり抜けた瞬間である。この歴史的シーンを見届けようと、港周辺には多くの人たちが陣取り、荘厳華麗な光のページェントを固唾(かたず)をのんで見守った。
当時、THE PAGEの記事は、「横浜港に初入港していた大型客船クイーン・エリザベス号が17日夜、次の寄港先の神戸に向けて出港した。クイーン・エリザベス号の高さは56.6メートル。これに対して横浜ベイブリッジの高さが55メートルで、潮位が下がる時間に合わせ、橋梁すれすれで通過した」と報じている。
多くのメディアの関心は、主役としてのクイーン・エリザベス号に向けられていたのであるが、土木ファンとしては、横浜港に25年間鎮座する長大斜張橋が、2000人を超えるお客様を丁重に出迎え、そして安全に見送ったと理解している。
9万トンに及ぶ世界最大級の豪華客船と橋長860メートルの斜張橋のエンジニアリングルーツは、船舶工学と橋梁工学に分かれるが、ともに近代工学が生み出した傑作であることは間違いない。一品生産の両雄は、もう二度と同じものは建造されないであろう。また、あるとき「どちらが高価か?」の無粋な議論に花を咲かせたこともあったが、答えは誰にも分からない。
さて、もう一度この画像をよく見ていただきたい。傑出したエンジニアリングの両雄が、“静と動に分かれて邂逅”した瞬間であり、何か言葉を交わしているようにも見える。堅牢瀟洒な建造物を称え合い、そして長きにわたる安全な運用を誓っているのではないか。
再度の出会いは、あるのだろうか? 2つの巨大エンジニアリングの建造物は、それぞれのミッションにて、それぞれのレガシーを育むことになる。大型客船を見送った横浜ベイブリッジは、いつもと同じように夥(おびただ)しい交通量をさばき、再度の来港を心待ちにしている。横浜港の原風景と宣(のたま)う暇もなく、東京湾岸の重要輸送路を担う“通常業務”におさおさ怠りない。