「拉致問題」再調査を約束、北朝鮮の狙いは? /辺真一「コリア・レポート」編集長
先月末、北朝鮮が拉致問題について再調査することで日本と合意しました。「拉致問題は解決済み」と言っていた北朝鮮が安否不明者の再調査に応じた背景には同盟国である中国の急速な対韓接近への反発が背景にあります。
中韓接近への反発
日朝合意(29日)の直前、中国の王毅外相が訪韓(26~28日)していました。訪朝よりも訪韓を優先させた王外相は韓国外相との会談で「中韓蜜月」をアピールしていました。早ければ今月末にも習近平主席が訪韓し、朴槿恵大統領と再度会談すると囁かれています。習主席は朴大統領を昨春、北京に招いたばかりでした。 中韓に比べて、中朝は金正恩政権発足から2年半経つのに中朝首脳会談は一度も開かれていません。金正恩第一書記の訪中も、習近平主席の訪朝も今もって実現していません。北朝鮮とすれば、中国と尖閣諸島の問題で対峙する日本に接近することで中国を揺さぶるつもりのようです。また、これを機に本気で「脱中国」を図ろうとしています。
経済制裁で疲弊
もう一つは経済的な事情があります。 金第一書記は「国民にこれ以上、ひもじい思いをさせない」と啖呵(たんか)を切ったものの国民生活は一向に向上しません。それもこれもミサイル発射と核実験で科せられた国連主導の経済制裁が解かれず、経済的に封じ込められているからです。 しかし唯一、日本に対しては「拉致カード」さえ切れば、人の往来も送金も、そして人道目的に限定されているものの船舶の日本入港も可能となります。長年止められていた人、モノ、カネが入ってきます。また、2004年に中断し、棚上げのままとなった食糧支援(2万5千トン=35億円相当)も医薬品(3億円相当)もゲットできます。さらに再調査の結果次第では500億円相当あった貿易の復活も期待できます。これだけでも経済的に一息つくことができます。
■朝鮮総連問題
日朝間では合意文をめぐって解釈の違いが表面化していますが、朝鮮総連の問題も、万景峰号の入港問題もネックにはならないものと思われます。 北朝鮮が「大使館」とみなしている朝鮮総連会館を召し上げ、富士見町から追い出せば、北朝鮮による再調査は容易ではなく、拉致問題の解決も望めそうにもありません。 朝鮮総連の問題では日本政府が知恵を絞っているとの話も漏れ伝わっています。所有権が落札した高松の不動産投資会社「マルナカホールディング(HD)」に移った段階で日本政府が適切に対処する可能性が大です。