『ブギウギ』を観て改めて考えるエンタメの存在理由 明日を生きる力を得るために
物語の世界に心が救われることは必ずある
「ライブエンターテインメントは不要不急なのか」。この問いかけに対し何の迷いもなく即座に答えを出せる人は非常に少ないのではないか。命の危険を感じている時や何日も満足な食事を摂れていない状況で誰もが必要とするのは安全な住まいと十分な食料、飲料水、そしてライフラインである。まだそこに歌や芝居の出番はない。 が、大変な状況から少しの落ち着きが見えた頃、ふと聞こえてくる歌で癒やされ勇気をもらったり、物語の世界に心が救われることはある。必ずある。そこからがライブエンターテインメントの出番だ。戦争が終わっていつ起きるかわからない爆撃がなくなり、少しずつ復興の兆しが見えてきた1945年11月の劇場で多くの観客がスズ子やりつ子の歌に自らの心を重ね涙を流したように。あの時、彼らはふたりの歌の奥に見える懐かしい誰かの姿を探し、彼女たちが紡ぐ歌の世界でつかの間の旅をしていたのだろう。 さあ、ここからスズ子たちはまた新たな一歩を踏み出す。上海で連れ去られたように見えた羽鳥も無事に帰国した。戦争でさまざまな傷を負った人々には今こそライブエンターテインメントの力が必要なのだ。前を向いて明日を生きる力を得るために。 スズ子のモデル、笠置シズ子は戦後、歌の世界から芝居の世界へと活動の場を広げテレビにも進出する。「誰に何を言われても自由にやる!」と高らかに宣言したスズ子が疲弊した日本をブギの力で活気づけていく今後の展開も楽しみだ。 最後になったが、本稿を書きながら2024年1月1日に能登半島で起きた地震により被災された方たちのことを何度も考えた。直接的な被害を受けなかった自分が今ここに何を書いていいのか正直わからない。寒く過酷な状況の中、まだ震えながら支援を待っている方も大勢いるだろう。そのことを忘れずに、ささやかでもできることを探していきたい。
上村由紀子