早朝に聞こえた号泣 忘れられない取材、この先も 若手記者コラム
冬が近づくと思い出す子どもがいる。 私にとって忘れられない、忘れてはいけない取材がある。 2021年7月の夜、先輩記者から電話が入った。「明日、遺族に話を聞きにいってほしい」 福岡県中間市の保育園児、倉掛冬生(とうま)ちゃん(当時5歳)が送迎バスの中で倒れているのが見つかり、死亡したという。脱水症状がみられ、熱中症が原因だった。 入社4カ月。西部報道センター(福岡県)で事件担当をしていた頃のことだ。 気は重たかった。我が子を亡くしたばかりの親が、見知らぬ人間に話をしてくれるとは思えなかった。 それでも、午前6時半に遺族の自宅に着いた。閑静な住宅街。ただ、自宅からは叫ぶような泣き声が響いていた。 1人で立ち尽くす。扉をたたくことはできなかった。 「なんで死ななきゃいけなかったのか」 その思いで、近くの住民に取材をした。出会ったのは、冬生ちゃんや家族と親交のあった高齢女性。女性の協力で、母親と祖母に話を聞くことができた。 「いまにも冬生が『ただいま』って笑顔で帰ってくるんじゃないかと」 おえつしながら話す家族の悲痛に、自分の感情があふれないようにするので精いっぱいだった。 もう二度と起きないように。園の不備や園バスの課題についての記事を書き続けた。 だが翌年、静岡県でも園児が送迎バスに取り残され亡くなった。 「私が伝えていたことは届いていなかったのか」 無力感が襲った。 人の命を守り、未来に希望を抱けるような記事を書かなければいけない。改めて胸に刻んだ。 23年4月、静岡での事件を契機に、園児の置き去りを防ぐための安全装置の取り付けが法で義務化された。 昨年、北海道報道センターへ異動。今は、人とクマとの共存について取材を続けている。ハンターの高齢化や自治体や警察との連携不足。クマと人との距離は近づいているのに、野生動物管理の将来像は今だ見えてこない。 簡単に社会制度は変わらない。でも、同じ思いを抱く同僚や他社の記者もいると知った。 60歳を超える大先輩記者は、知床の自然保護の観点から、携帯電話基地局整備事業に疑問を投げかける記事を書き続けた。居酒屋の席でも思いを熱く語っていた。開発ありきにみえた工事は「凍結」となった。 何を目的に記事を書くのか。軸をぶらさずに向き合っていきたい。(古畑航希、2021年入社、行政担当)
朝日新聞社