「実質0円」で建設した東京・豊島区新庁舎 ハコモノ計画に一石
“錬金術”のような建設費捻出
新庁舎の総工費は約430億円でしたが、豊島区は3パターンの建設スキームを検討し、もっとも費用がかからないプランを採用しました。 新庁舎の建設予定地になった区画には、閉校した日出小学校と児童館がありました。ここは区が所有している土地なので買収費用はかかりません。周囲の民家は権利変換方式で話がスムーズにまとまりました。 また、周辺エリアは木造家屋が密集しており、再開発事業地区に指定されていました。豊島区は庁舎建設と再開発にも同時に着手したので、国から約106億円の補助金がおりています。 新たに建設された庁舎のうち1階~9階までが区役所になり、11階~49階までは権利交換方式による地権者の住宅です。住宅フロアには空き部屋があったので、これらが新たに販売されて、その売上金181億円が庁舎の建設費や補償費に充てられています。さらに、旧区役所跡地は定期借家によって民間に貸与。これで約191億円を捻出しました。 まるで錬金術とも思えるような手法で、豊島区は新庁舎の財源を確保したのです。 「豊島区の新庁舎は建設費用をうまく捻出したことで注目されていますが、民間住宅と一体化するにあたって工夫した部分もたくさんあります。新庁舎は住宅用と庁舎用、そして地上階や屋上の庭園やコミュニティスペースといった公共用と3区分できますが、これらの修繕費を一つにまとめることはできません。そのため、3つの管理組合をつくり、それぞれで管理しています。また、停電や断水といったリスクヘッジのために電気室や受水槽なども3つ設置しました。こうした工夫の積み重ねが庁舎と民間住宅の一体化につながり、税金投入を実質0円で新庁舎を実現できた要因だと思います」(同)
渋谷区が同様の手法で計画
人口減少社会に突入し、生産年齢人口は減少。また、高齢化で福祉財源は年々増加しています。行財政は逼迫する一方で、公共事業にかけられるお金は限られています。 地方都市では不要になった公共施設を集約する動きも出てきていますが、公共施設をゼロにすることは非現実的です。今後は、いかに税金投入を少なくして公共施設をつくるのか? といったことが重要視されるようになるでしょう。実際、豊島区の新庁舎には国内・海外問わず行政関係者や再開発事業者など多く視察に訪れています。そして、豊島区を参考にした渋谷区が、同様の手法で新庁舎の建設を計画しています。 豊島区の新庁舎建設手法は、今後のハコモノ建設に一石を投じたといえるでしょう。 (小川裕夫=フリーランスライター)