「彗星の如く現れた文筆家、あっという間に本を出す!」ジェーン・スー
作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 【新進気鋭】新たにその分野に現れ、意気込みが鋭く、将来有望なさま。また、そういう人のこと。(三省堂 新明解四字熟語辞典) 使い古された言葉ではありますが、こう表現するしかない人がついに初の著書を世に放ちました。文筆家・伊藤亜和さんの『存在の耐えられない愛おしさ』。昨年の10月に、本連載で彼女がnoteというメディアプラットフォームに投稿したエッセイをご紹介してから8カ月。彗星の如く現れた人は、あっという間に本を出す! 素晴らしいスピード感。読み応えのあるエッセイ本にするには、最低でも8万字くらいは必要です。つまり、あれからずっと書き続けた。よく頑張った! いますぐ書店に走ってください。ネットで買ってもいいけども。 セネガル人の父親と日本人の母親のあいだに横浜で生まれ育った伊藤亜和さん。みんなと同じであることが強く求められる日本で、中身を知ってもらう前から違いを視認されてきた彼女が綴る、私たちとなんら変わりのない普遍的な日常。いや、変わった人も出てくるし、ちょっとどうかしている話がないわけではないけれど、そういうことが主題ではないのです。大事なのは、それを如何に綴るか。亜和さんはプレスリリースで、こう記していました。 〈「パパと私」からはじまる本書は、私が見てきたもの、出会った人について、愛を込めて振り返った記録です。善い人も悪い人も出てはきませんし、判断する必要もありません。大げさにも、しゃらくさくもないように書きました。私の愛おしい人たちについて、そして、私自身も知り尽くせない私について、お話しできる日を楽しみにしております。買ってください〉
イラスト:サヲリブラウン まさに、そこに綴られていたのは愛でした。静かで押しつけがましさのない愛が、一文一文からとめどなく溢れています。静かに炎を燃やす彼女が見つけた健やかな生き方は、違いを愛すること。 世の中を善悪だけでジャッジすると、とんでもなくギスギスします。我々は、いまそういう世の中を生きている。 悪を許容しろという話ではありません。と同時に、物事は多面的であることを綴れるのが、文学やエッセイだとも思うのです。彼女の作品は、それを改めて教えてくれます。 なにを綴るかではなく、どう綴るか。連載のネタに困ってばかりの私も、自分を顧みなければならないな。 じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中。 ※AERA 2024年7月1日号
ジェーン・スー