【リセットコリア】正義で包装された敵対感の悪循環を断つべき=韓国
大韓民国大統領の「黒歴史」はいつ終わるのだろうか。多くの人が非常戒厳を宣言した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領を非難していて、捜査機関は尹大統領と今回の事態の責任者を調査している。しかし我々は今回の事態の根本的な原因を確認し、韓国政治をアップグレードする機会にしなければいけない。いくつか原因があるだろうが、筆者は今回の事態の根本原因を人間の心、すなわち陣営間の敵対感に見いだそうと思う。 まず、尹大統領が大統領候補になって当選する過程を復碁してみよう。実際、名前も知られていない検事・尹錫悦を一躍スターにしたのは文在寅(ムン・ジェイン)大統領をはじめとする民主党政権だった。「保守壊滅」という言葉が出るほど朴槿恵(パク・クネ)政権の積弊に手を入れた検事・尹錫悦を称えて検察総長に座らせたのだ。文政権の人たちは崔順実(チェ・スンシル)国政壟断を断罪した正義感を強調するが、保守勢力に対する敵がい心も同時に作用したはずだ。 しかし「物極必反」という言葉のように世の中のすべてのことは極端に行けば反対に向かうものだ。進歩勢力に対する怨恨を抱いて捲土重来した保守勢力は文在寅政権を親北勢力に追い込んだ。こうした中、文大統領に反旗を翻した尹錫悦検察総長を「傭兵」として迎え入れ、国民の力の大統領候補に擁立した。大統領選挙で尹候補の当選には保守勢力の積極的な支持もあったが、左派政権に対する保守勢力の敵対感が大きく作用したとみる。 当時、尹候補は李在明(イ・ジェミョン)候補に0.73%ポイントの差で辛勝した。多くのメディアが「協治」を促したが、尹大統領は野党を自由民主主義を脅かす反国家・親北勢力として敵対視した。尹大統領の偏ったリーダーシップは結局、4・10総選挙で民主党を圧倒的多数党にした。そして民主党は多数党の地位を利用して尹政権側の人たちに対する弾劾と予算削減などで尹大統領を圧迫した。 すると尹大統領はこれを政治的に解決できず、非常戒厳という常識外れの手を打った。すなわち、野党に対する敵がい心が尹大統領の判断を曇らせ、結局、自らを崩すことになった。物極必反の原理が今回も作用したということだ。 我々が今回の事態から学ぶ点は政治陣営間の過度な敵対感が韓国政治を崩しているという事実だ。これには解放以降の左右の極限政争、そして韓国戦争(朝鮮戦争)など歴史的な根も深い。今でも我々の社会の多くの葛藤の根底には理念間の敵対感が色濃く残っている。 多くの人たちが韓国大統領の黒歴史の原因が現行大統領制にあると批判しながら、この際、大統領の権力を分散する改憲を急ぐべきだと主張している。正しい指摘だ。しかしいくら良い制度を作っても政敵に対する敵がい心という心理的問題は簡単には解決しない。「国会先進化法」が通過すれば国会で物理的暴力がなくなり、政争が緩和するものと期待した。もちろん過去のようなもみ合いはなくなったが、与野党の心理的対立はむしろ深まった。 敵がい心は人間の普遍的感情の一つだ。第2次世界大戦の惨状に対する反省から作られたユネスコ憲章の前文に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とある。この言葉は今の韓国政治にもそのままあてはまる。敵がい心はよく正義感で包装されるが、人間に対する愛が欠如した正義はよく暴力となり、社会をさらに疲弊させたりする。 今回の弾劾事態をきっかけに、韓国政治が今後お互いを殺す敵対的政治からお互いを生かす愛の政治に転換されることを強く望む。敵対が敵対を呼ぶこの悪循環をもう断ち切らなければいけない。すべての人類が兄弟であることを強調する「フォコラーレ(Focolare)運動」の創始者キアラ・ルービック(1920-2008)は「政治は愛だ」と力説した。彼女は「真の政治家は自身を支持しない国民も愛するべきであり、自身と信念が異なる政党も同じ兄弟として愛するべきだ」と強調した。韓国の次の大統領はどうか正義を実現しながらも、すべての国民と政党を抱き込むことができる心の広い人物であることを期待する。 金星坤(キム・ソンゴン)/一致のための政治運動韓国本部代表/元国会事務総長