〈特別取材〉「海のはじまり」最終回を経て、脚本家・生方美久に改めて作品への想いを聞いてみた
9月23日に最終回が放映されたドラマ「海のはじまり」。その脚本家・生方美久さんにドラマの見どころなどをじっくり伺いました。今回は最終回まで完走した本作品への振り返りそして想い、さらに脚本家という仕事、次回作についてを特別にインタビュー!
次はパキッとしたコミカルで晴れやかな作品がつくりたい
2024年7月・月曜夜9時から始まった連続ドラマ「海のはじまり」。スタートする前からかなり話題になっていましたが、毎週の放映後には、様々な考察が飛び交い、トレンドワードに上がることもしばしば。脚本家・生方美久さんによる完全オリジナルストーリーで展開された‟親子の愛”を通して描かれる‟家族”の物語。その制作過程の気持ちそしてこれからの展望を伺うと――。
■‟こだわりをあきらめない脚本”をやりきっていかがでしたか?
諦めたこともたくさんありました。テレビドラマなので、致し方ないことはたくさんあります。ただ、その諦めたことというのも「はい。無理です」と突き放されたわけではなく、スタッフ間でいろんな可能性を吟味した結果、「ここで落としどころを付けましょう」という感じでした。ドラマに携わるすべての人が作品のために一生懸命になってくれた実感があるので、後悔はありません。脚本家としての悔しさはありますが、今後に活かせればと思います。
■「考える余白のある作品」でしたが、全編通して印象的だったセリフを教えてください。
夏「想像しただけで、わかった気になっちゃダメだと思ってる」 近年のあらゆる問題で「想像力の欠如」という言葉を見聞きします。実際はその一歩先まで必要だと思います。想像だけで他者の思考や人生を決めつけないこと。
■「がん検診へ行ってほしい」「避妊すれば妊娠しないという認識について」について伝えたい…と前回のインタビューで伺いしました。元助産師という経験もおありですが、この作品で伝えたいことを改めて教えてください。
元助産師としてということではなく、脚本家としてドラマを通してできることは「正しい情報の提示」よりも「正しい情報を“調べる”きっかけになること」だと思っています。ストーリーがあるとどうしても登場人物の状況の1パターンしか提示できません。どうしたって教科書やパンフレットのようにはいきません。勘違いを招くリスクすらあると思っています。それらを回避しようとすると情報の羅列になってしまい、結果教習所のビデオみたいになります(笑)。それはドラマでは求められていないので、あくまで水季という人がどんな病気でどんな人生だったのかを断片的に見せています。それでも、ぼんやり見ていたドラマのなかで、20代の女性が子宮頸がんで亡くなったこと、病気が見つかったときにはできる治療が限られていたこと、「検診とか行ったことなかったらしくて」というセリフ……そういう端々から、子宮頸がんについて、検診について、ワクチンについて、自ら情報を調べるきっかけになってほしいと思いました。 SNSが普及し、情報を得られる人が増えたことで、正しい情報かどうかの判断ができない人も増えています。実際にドラマの感想として、明らかに疾患と予防に対する間違った情報を鵜呑みにしたものがいくつか届きました。そうなると、もう伝えたいことは「ちゃんと調べてください」の一つだけです。たとえばワクチンのこと。国は“接種の強要”なんてしていませんよね。HPVワクチンの接種はもちろん義務ではありません。公費で接種できる期間が迫っていたため、CMなどがちょうど活発なタイミングだっただけです。それに伴ってよく言われましたが、国や機関からの依頼があってドラマの内容に子宮頸がんを組み込んだわけではありません。エンドクレジットにそんな表記ありません。スポンサーにもいません。調べたらわかることを調べない人が多いのだと、それで実感しました。「国からいくらもらったんだ?」とまで言われましたが、フジテレビからの脚本料だけです(笑)。仮にどこかから依頼を受けて子宮頸がんという疾患を扱ったとして、何が問題なのでしょうか。ドラマをきっかけに検診に行った人がいて、早期で発見でき、治療でき、予後も良い。それがあったならそれでいいはずです。「宣伝」という雰囲気を感じ取ると怒る人が多い。鳩サブレーも、絵本『くまとやまねこ』も、わたしが希望して劇中で使わせていただいただけです。ご快諾いただき本当にありがとうございました。ドラマ内で使え!宣伝しろ!なんて誰にも言われていません。前の質問の答えにも通ずることです。想像で決めつけないでください。