マグロの「血合い」で心身ともに健康に:抗酸化物質・セレノネインが豊富、三崎港で新メニュー開発中
川本 大吾
世界でも類を見ないほどマグロを消費する日本で、これまでほとんど捨てられてきた端材「血合い」。その知られざる健康パワーが明らかになり、マグロ基地・三崎港(神奈川県三浦市)の料理店では、現地でしか食べられないご当地グルメとして、次々と新メニューを開発している。
端材だった血合いから、新たな栄養生理機能を発見
すしや海鮮丼のネタとして、不動の人気を誇るマグロ。そのうまさはもちろん、健康面でも優れた食材であることが知られている。マグロに多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は血液をサラサラにし、動脈硬化や心筋梗塞といった病気を予防があるという。さらに、中性脂肪を抑え、メタボ対策やダイエットにも有効だ。
そうした“健康食マグロ”について最近、注目すべき研究結果が発表された。マグロの血合い肉に高濃度で含まれる抗酸化物質「セレノネイン」が、生活習慣病全般の予防に加え、ストレス軽減やアンチエイジングにも高い効果があることが分かったのだ。 血液を多く含む「血合い」は、赤黒くて見た目が悪い上に、すぐ生臭くなる。市場に流通するのはまれで、卸業者や水産加工場、鮮魚店などで大部分が廃棄処分となってきた。そんな部位に有効成分がたっぷり含まれていることが判明し、水産業界は色めき立っている。
特に血合いの活用に積極的なのが、日本有数のマグロ基地・三崎港のある神奈川県三浦市。主に冷凍メバチマグロを扱う水産加工業者「丸福水産」の青木淳一社長は、「これまで血合いには値が付かず、ウチでは毎月トン単位で廃棄していた」と語る。SDGsの観点からも有効利用を目指したいとし、「実は、新鮮な血合いは刺し身でもおいしい。赤身と一緒に、レバ刺しのように塩入りのごま油で食べると絶品」と推奨。さらに、健康への働きが消費者に広まれば、「赤身と同レベルの1キロ当たり1000円程度になるチャンスはある」と普及への意気込みをみせた。
自然界で最強の抗酸化物質
水産業界の希望の星、有機セレン化合物「セレノネイン」の存在は2010年、国立研究法人水産研究・教育機構(横浜市)の山下由美子博士によって初めて報告された。それ以降、マウスでの研究が進められてきたが、同機構と神奈川県水産技術センター(三浦市)、聖マリアンナ医科大学(川崎市)は21~22年まで、初めて臨床試験よる共同研究を実施。その高い栄養生理機能が次々と判明した。 セレンは甲状腺ホルモンの活性化に必須なミネラルで、組織細胞の酸化を防ぐ上に、水銀などの有害物質を除去する機能などを持つ。中でも魚類由来のセレノネインは抗酸化作用が抜群で、同センターは「人の血液に入って、“万病の元”とも言われる活性酸素を直接退治してくれる」と説明し、「遺伝子などにも危害を加えない自然界で最強クラスの抗酸化物質」と強調。活性酸素の除去能力は、ビタミンEの約500倍にもなるという。 マグロやカジキ、サバなどはセレノネインの含有率が高く、クロマグロやメバチマグロの場合、血合いには赤身の約100倍もの量が含まれる。県と聖マリアンナ大の職員約100人を対象に、マグロの赤身と血合いをそれぞれ週3回(1食80グラムor120グラム)、3週間にわたって食べる実証実験で、初日と最終日に血中のセレノネイン濃度を測定。その結果、赤身に比べ、血合いを食べた方が、セレノネイン血中濃度の上昇率が大幅に高いことが分かった。 セレノネインは約2週間、体内にとどまるという。人はストレスを受けると活性酸素が増えるとされ、病気発症のリスクにもつながることから、聖マリアンナ医科大の遊道和雄教授は「血合いを継続的に食べると抗酸化力が高まり、心身の健康維持に役立つ」と解説。実証実験前には、約7割の人が軽度から強度のストレスを感じていたが、血合い喫食後には逆に7割が正常な状態となった。さらにアンチエイジングの指標となるサーチュイン2でも、2倍以上に増加するグループが出たことで、老化防止効果も期待大だ。