平成を彩ったドラマ「あすなろ白書」「若者のすべて」が真摯に描いたモノ　(C)柴門ふみ／小学館　(C)フジテレビジョン

昨年2023年は若者たちの葛藤を描いたドラマ「あすなろ白書」が放送から30周年、そして今年2024年には「若者のすべて」が同じく30周年の節目を迎える。複雑な人間心理がみずみずしく描かれたストーリーを、いまでは考えられないほどの豪華キャストたちの見事な演技が彩った不朽の名作たちだ。当時の若者たちをトリコにし、令和のいまも忘れられない両作の魅力を振り返る。 【写真】木村拓哉が見せた伝説のカット“あすなろ抱き” ■“豪華詰め合わせセット”な「あすなろ白書」 「あすなろ白書」は1993年に放送された月9ドラマで、主演は1992年に放送されたNHKの連続テレビ小説「ひらり」で人気を博した石田ひかりと、同じく1992年放送の「二十歳の約束」への出演で話題を集めた筒井道隆。さらに木村拓哉、鈴木杏樹、西島秀俊など、いまも第一線で活躍する俳優陣が脇を固めていた。 主題歌は伝説のバンド・チェッカーズが解散した直後の藤井フミヤが歌う「TRUE LOVE」、脚本はのちに「恋愛の神様」と呼ばれるようになる北川悦吏子と、平均視聴率27.0%、最高視聴率31.9%も納得の“豪華詰め合わせセット”のドラマだ。 原作は柴門ふみの同名漫画。一浪した末に念願の大学に入学したなるみ(石田)は、予備校で出会った仲間たちとキャンパスで再会する。ひょんなことから男女5人で「あすなろ会」を結成したことで、彼女たちの運命が動いていく。 「彼女がいても」と掛居(筒井)へアタックを続けるなるみのいじらしさ、そして“結ばれてめでたしめでたし”ではないストーリー展開が若者の心をくすぐった。恋心の不安定さ、過ぎていく時間の重さ、若さゆえの過ちといった、多くの人間が共感できるピースが詰め込まれていたのだ。 取手(木村)がなるみにバックハグしながら「俺じゃダメか？」とささやいたシーンは特に有名で、いまでも「あすなろ抱き」という言葉が記憶に残っている人は多いはず。掛井とのすれ違うさなか、強い思いを感じる掛井の言葉にNOと伝えたなるみ。2人の揺れ動く心を表した繊細な演技が、心に刻まれているのだろう。 さらに同作は、“同性に惹かれる男”松岡(西島)の苦悩もストーリーの大きなカギとなる。掛井に惹かれつつ想いを打ち明けられない松岡が取ったある行動とその結果は、視聴者に強い衝撃を与えた。ただ物語のアクセントとしてではなく、真摯に描かれた松岡という男の心象。現代において改めて見返すことで、新たな発見ができるかもしれない。 ■“大人になる直前の不安定さ”を描き切った名作「若者のすべて」 1994年にフジテレビで放送された「若者のすべて」は、“若者の苦悩”がテーマ。主演は萩原聖人、さらに木村拓哉、武田真治、鈴木杏樹、深津絵里、遠山景織子など、こちらも同じく豪華な俳優陣が名を連ねている。 舞台はバブル崩壊直後、先行きが見えない閉塞感ただよう時代。この時代を生きる若者たちは就職が決まらず、追いかけてきた夢を諦めざるを得ない者も少なくはない。夢破れて社会にもまれ、誰もがギリギリだからこそ生まれる絶望や裏切り、別れを経験しながら、生き抜く若者たちのリアルな姿が描かれた。 借金を抱えながら妹を養う原島(萩原)と上田(木村)がたどる悲哀の物語は、胸をふさぐような絶望に抗う若者特有の熱にあふれている。同じ時代を生きる多くの若者達から共感の嵐が巻き起こった同作。その影響はファッションにも表れる。 同作での衣装が評価され、木村がザテレビジョンドラマアカデミー賞のベストドレッサー賞を獲得。革ジャンにデニムパンツというアメカジファッションに憧れ、みんながこぞってマネをしたものだ。 木村が演じた上田は友人を植物状態にしたことに負い目を持ち、薬に逃げるなど逃避的な性格ではあった。だが精神的に不安定な村松(遠山)を支えたり、原島の借金を助けるために動いたりと性根はまっすぐな熱い男。木村の演技とストーリーに引き込まれ、上田のファッションに憧れる人が多かったのだろう。 さらに主題歌であるMr.Childrenの「Tomorrow never knows」も大ヒット。多くの話題を世間に送り出した、まさに一世を風靡した名作だった。 「あすなろ抱き」やアメカジファッションで話題をさらった両作。12月6日には「あすなろ白書」の放送から30周年の節目を記念して、「あすなろ白書」「若者のすべて」両作とも初のBlu-rayBOXが発売されている。時代が変われば人の心も変わるというが、名作から受けた感銘はいつまでも心に残って消えないもの。新しいものが次々に出てくるなか、ときには過去の名作で当時を振り返るのも悪くなさそうだ。