「いただきますに全身全霊を注いでいざゆかん!」痩せの大食いゆえの苦労と地方公演の楽しみとは【坂口涼太郎エッセイ】
どうせ蒸発するし、これくらいの量で当然よなあははん
そんな消費燃焼には大きな自信と失望のある私ですが、演劇などの際には頑張った自分へのご褒美として食事、とにかくおいしいものを、とにかく欲望に身を任せて、どちらか迷ったならば思い切ってどちらも、頼む頼む頼む、食べる食べる食べる。 中華はいつだって嬉しいね、今日は日高屋のあんかけやきそばを食べに行こう、日高屋はチャーハンもおいしいのよな、食べよ、あ、餃子も、春巻きもあるやん、からあげも頼も、キムチもいっとこか、ビールもすんません1杯くだされ、という具合に頼めばカウンターひとり分のスペースを大きく逸脱、なんとなく3人分のスペースを占拠する形となっているけれど結局全部蒸発するしな、それにこんなに動いてこんなに集中して1ヵ月間舞台の上で黄河もびっくりの水量で汗だくなのだもの、これくらいの量で当然よなあははん。 そんな、あははんご自愛期を東京で1ヵ月過ごしたのちに待ち受けているのは毎週末の地方公演。 私のもったいない精神が大爆発して真骨頂を発揮するのはいつだって旅先で、「いま食べないでいつ食べる。次またここに来れる日が来ると思うなよ。お腹がすいたかすいてないかなんて関係ないねん。とにかくいまここにいる間にありったけの地のものを摂取せよ。胃薬をチェイサーにしてでも食うんや。おなかいっぱいとか泣きごと言ってんとちゃうぞ。次に待ち受ける郷土料理を這ってでも食べに行くんや。東京で食べれへんもんを捜索発見しては食うんや。営業時間という究極のデッドラインがおれたちにはある。この土地のうまいもんが食べられる時間に合わせておれたちは眠り、起床し、行動するんや。さあ、いただきますに全身全霊を注いでいざゆかん!」という気概でまずは沖縄に降り立った食欲。 ソーキそば、海ぶどう、ゴーヤちゃんぷるーソーミンちゃんぷるーふーちゃんぷるーその他全てのたまごとじ。みみがーじゅーしーふーちばーじーまーみーあんだーぎー、伸ばし棒を有する全ての食べ物。「泡盛って沖縄で飲むのが一番おいしい」という陳述を聞きつけて馳せ参じては頼み、どんぶりで飲めると聞けば、「すごーい、おとくー、くださーい」と頼み、「え、しまんちゅの皆さんは飲みのあとのシメはステーキなんですか?」と教われば、「いこーたのもー、300グラムでー、あ、エビフライとガーリックライスもくださーい、え? スープとサラダ食べ放題? おとくー」と頼み、「すごーい、やわらかーい、のめるー、肉って飲みものやったんやー」と飲み干し、「え、ソーキそばって深夜でも食べられるんですかー、旅において時間っていつにも増して有限やからありがたーい」と参上しては頼み、「お出汁しみるー、もうここで寝たーい」と飲み干し、頼む頼む飲む、頼む頼む頼む食うを繰り返す様はどことなくなまはげを連想させ、うまいもんはいねーがー、うまいもんはでてこーい、うまいもんを差し出せーと鬼めきながら街を練り歩き摂取する食欲。 そして、翌日の舞台上でゼロにしては、またなまはげ化して街に消える。そんな週末を過ごして腹ぱんで帰京。平日は次の土地の郷土料理を調査してはグーグルマップのピンをとどめを打つような意気込みで打ち込み、心のなまはげの牙を勤しんで研いでいた。 そんななまはげに衝撃の事実が突きつけられることになろうとは、なまはげ変身前のさかぐちは知る由もなかった。 〈後編に続く……!〉 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎