未曽有の大震災を描いた日本映画の最高傑作は? 衝撃の邦画(2)幸せな日々が崩れる…名優の芝居に涙腺崩壊
地震大国・日本。阪神・淡路大震災、東日本大震災などを題材にした映画は数多い。近年は南海トラフ地震の発生も囁かれており、気をぬけない状況が続いている。震災は人々の心に大きな傷を残したが、その教訓を活かした作品が生まれたのも事実だ。そこで今回は、震災を扱った映画を5本セレクトしてご紹介する。第2回。(文・阿部早苗)
『心の傷を癒すということ 劇場版』(2021)
監督:安達もじり 脚本:桑原亮子 原案:安克昌『心の傷を癒すということ 神戸…365日』 出演:柄本佑、尾野真千子、濱田岳、森山直太朗、清水くるみ、上川周作、濱田マリ、谷村美月、趙珉和、内場勝則、平岩紙、キムラ緑子、石橋凌、近藤正臣 【作品内容】 自身のルーツが韓国にあることを子供の頃に知った和隆(柄本佑)は、自分は何者なのか模索しながら生きていた。 やがて精神科医の道に進み、結婚。子供にも恵まれ幸せな日々を送っていた最中、阪神淡路大震災が発生する。 【注目ポイント】 阪神・淡路大震災を背景にした精神科医・安克昌氏の著書「心の傷を癒すということ 神戸...365日」をもとに、NHKで放送されたドラマ全4話を再編集した劇場版。監督は、『花子とアン』(2014)『カムカムエヴリバディ』(2021)など多くの連続テレビ小説で演出を手掛けてきた安達もじりがメガホンを取った作品だ。 原作は、震災後の混乱の中で精神的な支援の重要性を訴えたノンフィクション作品。震災被災者が抱える心の傷に寄り添い、日本のPTSD研究の先駆者でもあった安氏の精神医療に対する新しい道を模索し続けた体験が綴られている。 自身のルーツと向き合いながら生きてきた主人公・安和隆(柄本佑)は、人の心に関心を持ち、親の反対を押し切って精神科医を志す。ある日、映画館で出会った女性・終子(尾野真千子)と結婚。その後、精神科医となった和隆と終子の間には第1子が誕生する。 しかし、幸せな日々も束の間、阪神・淡路大震災が発生。妻子を実家へ避難させ、和隆は震災によって心の傷を抱える被災者たちに寄り添うように避難所をまわり続けた。そんな最中、和隆に病魔が襲い掛かる。 和隆を通して大震災による被災者の心の傷や苦しみに焦点をあてている本作。人を助けられなかった後悔や震災を経験した子供の心理などPTSD(心的外傷ストレス障害)に苦しむ人たちに寄り添い続ける和隆は、彼らの語る言葉の裏に隠れた不安や恐怖を見逃さず、丁寧に耳を傾けていく。そんな和隆の言葉は人間の弱さを肯定するものばかりで心に沁みる。 阪神・淡路大震災は、平成7年1月17日の早朝にマグニチュード7.2の直下型地震によって神戸市を中心とした阪神地域と淡路島北部では甚大な被害を受けたという。この地震による犠牲者は6,400人以上にも及んだ。 本作は、人の心の中に眠る痛みと向き合い、それを乗り越える力を見出していく被災者たちの姿と、39歳の若さで亡くなった安克昌氏の生涯を描いている。阪神淡路大震災直後の様子に加え、心のケアや共感の大切さを改めて考えさせるシーンの数々と主人公を演じた柄本佑の演技に心震える作品だ。 (文・阿部早苗)
阿部早苗