ふるさと納税「本来の姿」とは 関西空港支局長・藤谷茂樹 記者発
「幸運は勇者を好む」。ラテン語由来の欧州に伝わることわざで、「勇敢に挑んでいかなければチャンスは訪れない」という意味だ。大阪府泉佐野市の食肉加工「アキラ商店」の取り組みを知り、思い出した。設立は令和3年8月と間もないが、同市内で創業し焼き肉店などを展開する会社から分社化し、食肉加工販売事業を継承したのが成り立ちだ。 グループの本業である飲食業が、新型コロナウイルス禍に見舞われ、緊急事態宣言や営業自粛要請などでままならない中での船出だった。だが、新しく工場を設け、冷凍設備を整備するなど事業拡大に挑んでいく。事業は数人で始まったが、今では約70人の従業員を抱える会社に成長。グループの店にも工場で切り分けるなどした肉を提供し、アキラ商店社長の松葉口昌二さんは「1カ所で集中的に調理するセントラルキッチン方式のような形ができ、店舗での調理スタッフの不足を補えている」と明かす。 危機的なタイミングで、あえて攻めの姿勢に出たことが後の状況を打開する手立てとなっていて、先のことわざの事例にふさわしく感じた。 こうした攻めの姿勢をとれた理由がある。泉佐野市の「#ふるさと納税3・0」というスキームを活用した。通常のふるさと納税では、寄付者が自治体の事業を応援するが、その事業目的の区分はおおまかにしか分からない。だが、このスキームでは一歩進め、市の補助金事業に対して寄付を受け付けるが、その支援先の事業者を明示した。寄付者にとっては、応援する事業者と取り組みが具体的に分かるクラウドファンディング(CF)型になっている。 泉佐野市が返礼品の開発、充実に向け、地場産品を創出するために編み出した。参加したい事業者が市に事業を提案し、審査で承認を受ければCFを実施。アキラ商店も、寄付を元にした補助金で、返礼品として用意してきた味付け肉の生産力増強などにつなげた。松葉口さんは「応援してくれた人たちのおかげで実現できた」と感謝する。 初めは返礼品収入が売り上げに占める割合が多くなるなど課題点はあるものの、アキラ商店はネット通販強化にもスキームを活用し、販路拡大に努めている。寄付が地域の産業を育てる―ふるさと納税の「本来の姿」に近づいたのではないだろうか。