高松宮殿下記念世界文化賞受賞を記念して振り返る、坂 茂が世界を魅了するデザインの秘密
3. 静岡県富士山世界遺産センター/静岡県(2017年)
「静岡県富士山世界遺産センター」は、世界遺産となった富士山の保護・保存・整備し、次の世代へと伝えるための拠点であり、学術的な調査機能をもつ施設です。訪れる人を驚かせるのが、建築で表現されたダイナミックな 「逆さ富士」。前面の水盤に建築が映り込むと、水のなかに富士山が現れます。この水盤は、富士山から引き込んだ湧水を空調熱源として利用した後の水で、「富士の水の循環と反映」というテーマを見事に表現しています。 県産材を使った木格子を組み上げた「逆さ富士」は展示棟で、内部は緩やかならせん状のスロープで繋がっており、疑似登山体験をしながら展示を鑑賞できます。最上階には大きなピクチャーウインドウがあり、1枚の絵のように切り抜かれた美しい富士山を望むことができます。
4. 大分県立美術館/大分県(2014年)
大分市の中心市街地に立つ「大分県立美術館」は、美術館の閉鎖的なイメージを覆す建築です。 街とつながる1階部分にはガラス張りアトリウム(巨大な無柱空間)となっており、無料で入ることができます。アトリウム内には可動式の展示壁があり、自由度の高い展示やイベントを行えるようにしています。カフェやミュージアムショップもあり、美術館を目的にせずとも日常的に利用できます。
5. ラ・セーヌ・ミュージカル/フランス(2017年)
ラ・セーヌ・ミュージカルは、セーヌ川の中州、セガン島に2017年にオープンした音楽複合施設。 島の先端に建つ、浮遊感のあるドーム型の建築に川の水が反射し、美しい光を放ちます。建物の周囲には船の帆をイメージした巨大な太陽光パネルが設置されており、太陽の動きにあわせてパネルが移動する仕組み。最大6000人収容可能な多目的ホールとクラシック音楽ホール、音楽学校、展覧会スペース、レストラン、屋外庭園などを併設しています。
プロフィール 坂 茂(ばん しげる) 1957年生まれ、東京都出身の建築家。 南カリフォルニア建築大学やクーパーユニオン、磯崎新アトリエで建築を学んだのち、1985年、東京に株式会社坂茂建築設計を設立。 現在は東京のほか、パリ、ニューヨークに事務所を持つ。「紙(紙管)」を使用した建築で知られており、シェルターや避難所のパーテーションといった災害支援プロジェクトにも注力し、建築家として社会的な問題と向き合いながら、独自のアイデアをかたちにし続けている。 受賞歴は、2014年にプリツカー賞、2017年に紫綬褒章、マザー・テレサ社会正義賞。今年新たに高松宮殿下記念世界文化賞の建築部門にて選出された。 ■高松宮殿下記念世界文化賞について 「絵画」「彫刻」「建築」「音楽」「演劇・映像」の5部門で優れた功績をあげた人に贈られる、日本美術協会主催の国際賞。建築部門を受賞した日本人は、丹下健三(1993年)、安藤忠雄(1996年)、槇文彦(1999年)、谷口吉生(2005年)、伊東豊雄(2010年)、SANAA(2022年)。