「住むところぐらいなきゃいけない」父親を亡くしてその愛に気づいた、独身の一人娘
身近な人に死が訪れたとき、葬儀から法事、遺産相続、家の整理、お墓問題など、やらなくてはならないことがたくさんある。作家・エッセイストの横森理香さんが自身の体験をもとにつづったエッセイ『親を見送る喪のしごと 亡くなったあとにすること。元気なうちにできること。』では、親を見送る世代のために、いまからできる“喪のしごと”を紹介している。 【写真】“喪のしごと”がまとめられた一冊 本記事では同書から一部を抜粋。父親を看取ったある独身女性のケースを取り上げる。
独身で親を看取った友人S
友人Sは独身で父親と二人暮らしだった。末期がんで余命宣告を受けていたが、入院はしたくないというご本人の希望で、在宅医療を受けていた。月二回、かかりつけ医が訪問してくれる。 「入院したくないっていうから、どうしようかと思っていたら、たまたま近所に在宅医療のクリニックができたんです。いわゆる看取り医で、死亡診断書も出してくれるので、自宅で死んでも警察が入ることはないんです」 女性医師で、とても力強く、あたたかい人だったという。 「父は私が仕事から帰ったとき、床にうつ伏せで倒れてたんですが、慌てて先生に連絡し、死亡を確認してもらいました。二人で仰向けにし、一晩中、コンビニに氷を買いに行って、遺体を冷やしていました」 動揺が少し収まった深夜、父親の側近にラインを打ち、その晩はそばで寝て遺体を冷やし続けたという。 「看取り医の先生から、とにかく冷やすことと、ATMで当面必要なお金をおろしておけと言われ、コンビニに五回通ったかな」 いくらくらいかかるかわからないし、葬儀では現金でしか払えないものもあると聞くから、いろいろな支払いも含めて、とりあえず百万は下ろしておこうと、父親の口座から二十万ずつ五回、引き出した。 「なんか、強盗殺人犯みたいでしたよ」 とSは笑う。 父親は会社を経営していたので、翌朝、跡を継いでくれたO氏から電話があった。 「どの程度の葬儀をあげるおつもりですか?」 「何も考えてなくて、予算も見当がつかないんです。父は、小さな葬儀がいいと言っていましたが……」 父親が息子のように育てた後継者だけに、ネットで検索してちょうどいいところを探してくれたという。テレビにも取材された、ぼったくらず、心を込めた葬儀をしてくれる葬儀社だった。無宗教の葬儀なので、戒名料、僧侶への謝礼はいらなかった。 「東京都は火葬代が高いから、葬儀代金はどうしても高くなっちゃうんですが、区から助成金が七万円いただけるので、百万円以内では収まったんです」