【漫画家に聞く】締め切り前、気難しい作家への“最強の差し入れ”とは? ダイナミックな編集者が読者を圧倒
ちょっとした手土産や差し入れに光るセンス。職場などでそんな経験を持つ人は多いかもしれないが、Xでは「差し入れはやる気の燃料」というセリフと凄みのある絵で人気の漫画がある。ジェントルメン中村さん(@gentlemennkmr)が描いた『締め切り前の作家に差し入れを持って行く話』だ。 締め切り前、気難しい作家への“最強の差し入れ”とは? 漫画『締め切り前の作家に差し入れを持って行く話』 本作は2019年、講談社文庫公式サイトで連載されていた『ようこそ! アマゾネス☆ポケット編集部へ』の第15話。ちょっとした贈り物の話がダイナミックかつシュールに描かれる本作の制作裏を、作者に振り返ってもらった。(小池直也) ――本作をXに投稿した経緯は? ジェントルメン中村(以下、中村):過去に「差し入れってのは小説家のやる気を上げる為の燃料!」というセリフの象徴的なコマだけでも軽くバズったことがありました。 だから1話分を投稿したら読まれるかもしれないと思ったんですよ。あとは『ようこそ! アマゾネス☆ポケット編集部へ』の電子書籍がセール期間だったのもあり、このタイミングだなと。 ――このエピソードの着想源などについても教えてください。 中村:『ようこそ! アマゾネス☆ポケット編集部へ』は編集者やデザイナーなどの出版業界の裏方さんにスポットを当てた話なんですよ。そのなかでも「作家と編集者」という直球なストーリーを描いた回が本作でした。 着想は文庫の編集者の方々に作家とどう付き合っているのか、という話を聞いたこと。そこで「差し入れは持って行く」という話を聞き、作家と編集者が密だった時代が斬新だったんです。僕自身はそういう経験はありませんし、今はリモート時代で未知の世界で。そこを広げて描いたらお仕事漫画として面白いかもと思ったんです。 それで浮かんだのが先ほど話した象徴的なコマのアイデア。あの場面ありきで、発想を膨らませていった感じでしたね。 ――普段から印象的なコマから全体を作る手法を使う? 中村:どういう話するかを考えて、逆算して作っていくことが多いです。本作なら「差し入れでやる気を出させる」からスタートして、「それなら冒頭はやる気がないだろう」「話を盛り上げるなら作家は差し入れにうるさい人物がいいだろう」「そんな人物にやる気を出させるもの何だろう?」といった流れ。 ――最後に意外性のある差し入れが登場しますね。 中村:「あるある」と「ありえない」を同時に表現しようと思ったんです。差し入れとして意表を突くけど、読者の方が共感できそうなもので考えました。 ――漫画家に贈る、おすすめの差し入れは何だと思います? 中村:漫画家は肩が凝っていると思うので、健康グッズや安眠系のものとか体を労わってくれるものですかね(笑)。それから差し入れではないかもしれませんが、シンプルにファンレターをもらえると嬉しいです。 ――今振り返って『ようこそ! アマゾネス☆ポケット編集部へ』という作品は、自身にとってどんな作品ですか。 中村:過去の作品でも「破天荒だけどプロな先輩の仕事ぶりに感動する後輩の話」という本作と同じ構造の漫画を描いてきたんです。でも初めて女性を主人公にしたことで、幅広い読者に届くようになりました。「自分に女性は描けない」と思い込んでいたので、世界を広げて自信を持たせてくれたターニングポイント的な作品ですね。 ――現在連載中の『球神転生』についても教えてください。 中村:「野球が上手い奴が偉い」という野球至上主義の異世界に野球の神様的な存在が転生したらどうなるか、この世界観でボクシングや剣道、サッカー、ゴルフなど他のスポーツの選手が野球に進出したらどうなるか。「野球ルールの異種格闘技戦」といったイメージの作品です。 ――今後の展望などもあればお願いします。 中村:まずは『球神転生』を盛り上げていきたいです。自分には無理だと思い込んでいた女性や少年スポーツ漫画が描けたので、これからも自分に限界を設けずに経験のないジャンルに挑戦していくのが目標ですね。
小池直也