今日の1杯目のビールのために命を懸ける。松岡昌宏が語る目標をもたない生き方
これまで関わった作品で、飲みに行かなかったのはこの現場だけ
――シーズン2に関して、その魅力を“団体戦”という言葉で表現されていました。松岡さんから見て『密告はうたう』のキャスト・スタッフ陣はどんなチームなのでしょうか? 松岡 “団体戦”ではあるんですけど、この『密告はうたう』のメンバーは全員が個人事業主なので、“チーム”ではないんですよ。そこが面白い! 普通のドラマだとチームになるし、役によってはそのチームに入らない方が面白かったりするんだけど、この作品に関しては、全員が個人事業主。自然にそうなってるんですよね。おそらく、(内片輝)監督がそういう形を望んでるんじゃないかと思います。全部を一緒くたにするんじゃなく、それぞれを活かすために「この人はここ。こいつはこっち」と。お弁当でいろんなおかずの味が移るのを嫌がる監督なんですね。薄味の卵焼きの横にミートボールを置くようなことはしない人なんです。 ――現場で座長として、立ち位置やコミュニケーションなどを意識することは? 松岡 一切ないですね。他の現場ではいろいろするんですよ。酒を飲みに行くことだってあるし。でも、この現場では1回もないです。別にそれが楽しいというわけじゃないんですけど、楽しいとこの作品は成立しないと思います。僕がこれまで関わった作品で、酒を飲みに行かなかったのはこの現場だけですね。 ――今、松岡さんのモチベーションの源泉は何ですか? 目標はありますか? 松岡 目標は持たないです。モチベーションはその日、その日ですね。やる気を出してどうにかなるんだったら、やる気出せばいいんだろうけど、やる気だけでまかり通るような時代でもないし、今は昔みたいに汗水たらして頑張ればいいってもんじゃない。そうなると、自分の中でモチベーションとなるものをつくるしかないんじゃないかな? それは人それぞれ違うもので、仕事終わりのビール1杯なのかもしれないし、帰ってから見る子どもの笑顔なのかもしれないけど。俺の場合は「おつかれさまでした。撤収!」という言葉を聞くことかな……? ――佐良のモチベーションは何だと思いますか? 松岡 斎藤(戸塚祥太)の謎の死をどうやって解決してやろうかってところにとり憑かれた男だからね。それがなかったら、ここまでしないでしょ。 ――忙しいときやキツいとき、どうやって気持ちをコントロールしているんですか? 松岡 落ちたとき、無理して上がろうとしない。落ちているときは落ちる。それでいいと思ってます。 ――そうすれば、そのうち自然と上がる? 松岡 今まではそうだったね。それが上がってこなくなったら終わりだね。そんなもんだよ。 ――松岡さんの言葉の端々からは、どこか執着のなさが感じられます。そうした考え方、生き方は若い頃から? 松岡 10代の頃からですね。それは誰よりも濃い生活をしているからじゃないかな? 一般の方がされている生活の100倍くらいのスピードで動いてるから、(ひとつひとつに執着してしまうと)時間がないよね。 ――そんな松岡さんが「これだけは譲れない!」と執着するものはあるんでしょうか? 松岡 今日の1杯目のビールがどれだけうまく飲めるのかってところに命懸けてるね。俺が、どうしてこうやって働いてるかって、その日に飲む1杯目のビールがどれだけうまいかというところに懸けてるから。だから働くんだよ! それ以上でもそれ以下でもないね。 ――ちなみに、お好きなビールのつまみは? 松岡 これは難しいね……(笑)。日によって変わるから……今日は漬けものじゃない? 塩がほしいかな。しば漬けとか。一番良いのはテメェの汗なんだろうけどね(笑)。自分の汗をつまみに飲めるようになったら、いっぱしの呑んべえだよね(笑)。