成田凌「いい画のためならリテーク何十回でも」ソフトな見た目とハードな俳優魂
「こういう作品をやりたくてこの仕事を始めたんで、幸せです」。つげ義春のマンガが原作の「雨の中の慾情」で主演した成田凌。妄想と現実の中で自分を見失ううらぶれた漫画家を巡る奇譚(きたん)で、これまでのイメージをまた一つ更新。表情と言葉はあくまでも柔らかく、しかしその奥に演技への強い思いが感じられたのだった。 【写真】インタビューに答える「雨の中の慾情」の成田凌
「カツベン!」で毎日映コン男優主演賞
モデルとして活動を始めた当初から、視線の先にあったのは映画俳優。「もともとはテレビっ子」というが、永瀬正敏を知って「映画を見たい」とのめり込んだ。「1990年代、2000年代の映画がすごく好き」。俳優デビュー後はドラマで注目され、転機となったのは2019年。そのころ「映画の年にしませんかと提案して、いろんな作品に出させてもらいました」。18年から19年にかけて「ここは退屈迎えに来て」「スマホを落としただけなのに」「愛がなんだ」「さよならくちびる」「人間失格 太宰治と3人の女たち」などなど、出演映画が続々と公開され、活動弁士役で主演した「カツベン!」で、毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。俳優としての幅を一気に広げ、評価も固めた。「すてきなチームで仕事をしたい。映画でやっていけたらいいなと思ってる派、なんです」 30代に入り、今や引っ張りだこの人気者。それなのに「映画の人たちへの憧れみたいな気持ちが抜けない」とか。「永瀬さんと『カツベン!』で共演した時は、撮影中ずーっとくっついて、たわいのない話をして、それだけで幸せでした。自分の携帯が鳴って、画面に『永瀬正敏』とか表示されると思わずスクショしちゃいます」
「厳しめで」とお願いすることも
「雨の中の慾情」は、冒頭場面からギョッとする。土砂降りの中、バス停で男女が雨宿りしている。「雷が落ちるから金属は外した方がいい」と成田演じる男が言い、女は次々と服を脱いでいく。やがて2人は裸になり、水田で泥まみれで抱き合う。際どいユーモアもあるト書きに「こんな脚本、見たことない」と喜んだ。 片山慎三監督は粘りの演出。時に10回以上の撮り直しも。しかし「当たり前のこと」と意に介さず、むしろ楽しんだようだ。「いいものを作るのに、何回でも何十回でもやりましょうと」。映画やテレビの現場で「諦めみたいなもの」を感じることもあるという。「泣くようなシーンは1回でOKになりがちだけど、そうじゃない時も絶対ある。やるとなったら甘やかさない方がいい。最近は監督に『厳しめで』と言うこともあります。テークを重ねることがマイナスに捉えられないといい」。優しげなたたずまいから、頼もしい言葉がてらいなく、次々と出てきた。 「雨の中の慾情」は、つげの同名マンガに他の作品を融合させて創作。物語に仕掛けがほどこされ、意外な展開を見せる。「脚本を読みながらずっとワクワクが止まらなかった」。撮影前に出版社の友人に頼んでつげのマンガを取り寄せ「箱いっぱいの作品を読んで、空気感をつかんで臨みました。大変かなという気もしましたが、撮影現場の美術とかロケーションを見て、いい画(え)が撮れると思いました」。時にコミカルなラブストーリーを軸に、ひねった展開や超現実的な映像も取り込んだ挑戦的な作りを「逃げない映画」と表現した。「映画を真剣に見る人も、楽しそうだからと見る人も、どちらにも刺さればいいなと」