〈ギャラクシー賞奨励賞受賞〉放送局の幹部までもが「ニュースなんていらない!」「稼げるコンテンツを探せ!」と発言する時代に、「記者たち」の今と未来を見据える
「辺野古のジュゴンってさ、本当はいないでしょ、あはは(笑)」
彼らの共通項をひとつ挙げるとすれば、「当事者」になることを恐れない姿勢だと思う。それはマッチョなふるまいとは違い、人間としての優しさに根差している。 それぞれに目指したい未来があり、不当な差別や偏見、不条理を社会からなくそうと記事を放つ。 単なる両論併記ではなく、見せかけの中立性に陥るでもなく、根源的に構造を問うものだ。記者たちは組織の枠を越えて動こうと決意し、最前線で踏ん張っている。 驚天動地と言えるような出来事は、日常的に静かに進行する。たとえば、防衛省を担当する明記者を取材するなか、記者クラブ制度という特権に胡坐をかく大手メディア記者たちを繰り返し目撃した。 2024年1月10日、沖縄県名護市辺野古の軟弱地盤が問題となっている大浦湾側の海域で、沖縄県の行政権限を奪う「代執行」の手続きに基づく工事が始まった。 木原稔防衛大臣は、退庁時に囲み取材を受けることになった。沖縄県民は選挙や県民投票で繰り返し辺野古埋め立てに反対する民意を示し続けている。 だが、地盤の最も深い地点には改良工事の杭が届かないという致命的欠陥を押し切り、米軍のために巨額の血税を投入する埋め立て工事が進む。 沖縄県は公式ホームページにこの海域について次のように記している。 「辺野古・大浦湾周辺の海域は、ジュゴンをはじめとする絶滅危惧種262種を含む5,300種以上の生物が確認され、生物種の数は国内の世界自然遺産地域を上回るもので、子や孫に誇りある豊かな自然を残すことは我々の責任です」 貴重な自然破壊にも繋がるこの工事着手の日。1階で大臣を待つ防衛省クラブ加盟記者の発言には驚いた。 「辺野古のジュゴンってさ、ネス湖のネッシーみたいなもんじゃないの。本当はいないでしょ、あはは(笑)」 ねつ造が明らかになっている架空の生き物ネッシーと絶滅の恐れのあるジュゴンを同列に扱って嘲笑する記者の愚かしさ。 「ジュゴンは現在も生息」と研究論文が一面記事になるほど沖縄では関心が高いが、防衛省のフロアでデマに基づく暴言をたしなめる他の記者は一人もいない。一緒に笑いあっている。これは沖縄ヘイトにあたるのではないか。 基地の過重負担を押し付ける日本政府とその国策を容認して暮らす多数派の国民。沖縄県民との深刻な不均衡に加え、戦後の歴史や加害性を記者が全く意識していない。 そばにいた明さんは自分の質問を推敲するのに集中していて聞こえなかったという。この嘲笑のすぐ後、明さんは、大臣に問いただした。 「玉城デニー知事は、この事業について先ほどの会見で、沖縄の苦難の歴史にいっそうの苦難を加えるというふうに県庁のほうでご発言をされていたんですがー」 木原大臣は「普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現するための共通認識」などと答えをはぐらかすも、沖縄2紙以外から質問はでない。 大臣が車で去ってゆくのを玄関で見送る多数の記者たち。異様な光景だ。記者が大臣のしもべに見えた。当局と同化する記者クラブ制度の怖さを感じたのだった。