「近所のプール指導員が孫に無理矢理…」「プロパンガスの周辺にマッチが…」労働組合と対立する陰でJRの社長家族に忍び寄る恐怖の影
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第33回 『不倫スキャンダルで窮地に陥った葛西を救った”東大時代の友人”…「極左の過激派」が潜む労働組合をも圧倒する驚異的な「人脈」』より続く
「松田は大悪人」…大音量の嫌がらせ
JR東日本の社長、会長を歴任した松田昌士は、2008年11月29日付の日本経済新聞「私の履歴書」28回目で自らの労務の苦労談を次のように書いている。 〈国鉄時代、私は常に主力組合であった国鉄労働組合(国労)と真っ向から対峙した。分割・民営化の信念を掲げ、これを曲げることもなかった。当然、私への風当たりはきつくなり、それは家族にも及んでいた。陰に陽に寄せられる様々な苦情、いやがらせ。国労関係者だけでなく、彼らと連帯を組む勢力が入れ代わり立ち代わり、妻や三人の子供たちに圧力をかけていた。 国鉄民営化への道筋がたったころからJR発足にかけては特にひどかった。当時住んでいた埼玉県与野の自宅ではプロパンガスの周辺に幾本ものマッチ棒がばらまかれていた。組合の街宣車は近隣を練り歩き「松田は大悪人」と大音量で流し続けた〉
孫にまで及ぶ陰気ないじめ
これは分割民営化に反対してきた国労との闘いを指す。〈彼らと連帯を組む勢力〉とは国労の活動家のことだと読みとれる。続いてこうも書く。 〈ある時、同居している長女の息子が極度に水を怖がることを知った。理由を尋ねると、近隣のプールで指導員とおぼしき人物に無理やり顔を水に押し付けられたという。孫にまでの陰気ないじめにはさすがに慄然とした〉 ここのクダリにあるいやがらせの時期がいつなのか、相手はどの組合なのか、そこが判然としない。何度も書いてきたように、JRが発足して以降、旧国労は解体され、旧動労の松崎が取って代わった。三人組の一人である井手は松田も松崎を信用してきたと言ったが、松田はむしろ旧鉄労に近かった。民営化当初、松崎のつくったJR総連委員長に就任した鉄労出身の志摩が、JR東日本常務だった松田にJR総連からの脱退の了解を得たのも、そのあらわれといえる。松田はJR発足当初、松崎に対して厳しかった。 民営化後の松田は骨抜きになった国労ではなく、JR東海の葛西と同じく、松崎が委員長を務めるJR東日本労組や革マル派の影に怯えた。暴行や脅迫といった刑事事件が起きても、犯人不明のケースが多く、真相は藪のなかだ。松田はプールの件についても、明確に犯人像を描けなかったのかもしれない。この点について、先のJR東海関係者はこう推測する。 「われわれは、プールの一件が松田さんの方向転換のきっかけではないか、と推測しています。もちろん誰の仕業かはわからないし、下手に書けば反撃を食らうので書けない。だから松田さんはそこをぼかしている。けれど、新聞に書いて精一杯の抵抗をしたのではないでしょうか。それほど身にこたえたという逆説のように感じます。民営化前後から表向きは松崎を信用していると言い続けてきました。それは松田さんが脅しに屈したとは口が裂けてもいえなかったからではないでしょうか」 『「国鉄改革の立役者」葛西が政界を牛耳る「国士」にまでなれたワケ…停滞期にあった東海道新幹線を大躍進させた驚異の手腕とは』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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