マー君の復活を支える2種類のスプリット
米大リーグは17日から後半戦が再開。ヤンキースの田中将大投手(26)は、本拠地ヤンキースタジアムにマリナーズを迎える後半戦開幕投手に指名され、マ軍のエース、ヘルナンデスと投げ合うことになった。田中は前半戦最終登板となった9日のアスレチックス戦では、今季最長となる7回2/3を投げて、5勝目をマーク。今季初の100球超えとなる114球を投げる力投で、後半戦への期待は増すばかりだ。 トミー・ジョン手術という選択肢を選ばず、右肘靭帯部分断裂という爆弾を抱えながら登板を重ねることを選んだ田中。首脳陣は1日休養日の多い中5日で起用し、なお球数を極力減らして肘への負担を軽減する一方、田中自身も持ち前のアジャストメント能力を遺憾なく発揮しながら、復活の道を探ってきた。その中で、ピッチングスタイルの変化の1つに挙げられるのが、チェンジアップとの決別だ。 「僕の中では、もともと、チェンジアップは重きを置いていた球種ではないです。以前はカウントを稼ぐ球として使っていたのですが、今年から握りを変えることで、2種類のスプリットを投げ分けられるようになった。(肘に)制限があってチェンジアップを投げないという訳ではなく、今年は空振りを取るスプリットと、カウントを稼ぐスプリットを握りによって投げ分けているので、特にチェンジアップを投げる必要性を感じていません」 田中の言う「カウント・スプリット」は横回転を多くしてスーッと沈んでいく、言わばシンカーっぽく落とすもの。「空振りスプリット」は垂直落下。真っ直ぐストンと落とすものと、軌道が違う。投球内容を観察する限り、右打者に向かっていく感じで落ちる「カウント・スプリット」を効果的に使うことが、今季の投球を助けているようだ。 「正直、日本にいるときはストライクからボールになってくれれば振ってくれるやろ、という気持ちでしか投げていなかったんですけど、その辺の投げ方がこっちに来て、特に今年に入ってからできるようになってきたと思うんです」 さすがは、適応力の男。言葉は悪いが、日本球界時代は完全に打者を“見下して”投げていたスプリット。昨年以降、家伝の宝刀が日本と同様に通じる程、メジャーの世界は甘くないと察知したのだろう。今年は密かにスプリットに磨きを掛けて、2パターン搭載でバージョンアップした。その結果、自分の中では、それほど頼れる球ではなかったチェンジアップは不要になったという格好だ。4月23日(日本時間24日)のタイガース戦で好投したものの、その後、右手首の炎症と前腕の張りで故障者リスト入りした田中にとって、手首を固定して投げるチェンジアップとの決別は、「クレバーな選択」とも言えるだろう。 ヤンキースは前半戦を48勝40敗で首位ターン。2位タンパと3.5ゲーム差、最下位レッドソックスとも6.5ゲーム差とア・リーグ東地区は混戦模様。エース・田中の後半戦開幕勝利を合図にヤンキースが混戦から脱出し、独走態勢を築くことができるだろうか。