【トリビュート】稀代の天才カーデザイナー マルチェロ ガンディーニを偲ぶ
そんな中でも超有名なのは言うまでもなく「カウンタック」で、「カウンタック」がなければ世の中にスーパーカーというのは存在していないともいえる王様である。だが彼は突拍子もないことや、あえて風変わりなものを作ろうとして「カウンタック」をデザインしたのではまったくなく、ガルウイングドア(正確にはシザースドア)も、ミッドマウントエンジンという構造上の乗降性を考えた、必然から生まれた機能的なデザインの結果であって、決して機能を無視したものではない。そんな「カウンタック」を見て、息子をピアニストに育てようと思っていた父は、初めてカーデザイナーとしての彼の姿を称賛してくれたのだという。
その後もガンディーニはランボルギーニ ディアブロやブガッティEB110、チゼータ モロダーV16Tといったスーパーカーを数多く手がけているが、僕は彼のデザインの本質は彼の人柄と同じように、控えめで機能的な王道の美しいデザインであると思っている。有名なストラトスの風変わりな円筒のウインドシールドは視界確保のためだし、エンジンカバーの開き方もラリーでの整備を優先させたためだ。昨今世の中にはびこっている、多くのデザイナー(という名前の方々)が描く、うねうねとした無意味で複雑なラインのお絵かきとはレベルの違うデザインを僕はガンディーニやジュージアーロから感じることが多い。
もちろんデザインの好みは人それぞれだが、圧倒的に直球勝負で黄金比のようなデザインを行うのがジュージアーロだとすれば、美しさに加え、誰にも似ていない彫刻を、一刀を振いながら手掛けるのがガンディーニ、そんな対比の印象を僕は抱く。彼のデザインの中で一台だけ選ぶというのは至難中の至難だが、本当に個人的に思い入れが詰まったシトロエンBXに後ろ髪をひかれつつ、ルノー シュペール サンク(Super 5)を選びたい。特にCピラーのリアランプの処理など絶妙だし、あれほど一切の余計なラインをもつことなく、何ものにも似ることなく美しく魅力的な2ボックスカーはないと思う。 無意味で大げさなラインなど一切持たないが、未来的でバランスのとれたデザイン、それこそがガンディーニの描く自動車に共通した魅力であり、「シュペール サンク」にはそのエッセンスが詰まっている。