大事なことは「クラブを振らない」こと…「いつまで経っても飛ばないスイング」を卒業するために知っておくべきこと
「生涯スポーツ」の代表格と言われてきたゴルフですが、残念ながら、ケガや病気を理由にゴルフから離れてしまう人が多いのが現実です。じつは、その原因の一つにはゴルフスイングに対する日本の“間違った解釈”があります。 【写真】じつは体を痛める「絶対にやってはいけないゴルフのスイング方法」 1995年に渡豪して以来、約30年にわたってゴルフの最先端をいくオーストラリアで最新の理論を学びながら、トッププロからアマチュアまで、さまざまなゴルファーの指導をしてきた著者が、世界標準のスイングを身につけるメソッドについて解説します。 *本記事は、板橋 繁『エイジシュート達成を目指せ! 〈50歳からの〉科学的ゴルフ上達法』(講談社)の内容を一部抜粋・再編集したものです。
トップ~切り返し
クラブの自由性に任せてクラブなりにバックスイングがおこなわれると、「体のどこを回そう」といったことは考えなくなります。 試しに前傾姿勢をとり、へその高さで手のひらを上に向けて右手でクラブの真ん中を持ち、フェース面を真上に向けてみてください。その体勢から上体をねじって右胸の横でクラブを立たせ、そのまま首の後ろにクラブを巻きつけると、胸郭がしっかりとねじられて肋骨がキュッと締まってくるはずです。 胸郭が回れば背中はターゲットを向き、腰も勝手に回ります。力みが伴うトップはクラブが暴れますが、クラブの動きに呼応して体が捻転していくと下半身も安定して、トップの位置がピタッと決まります。 さらに、クラブに自由を与えて、その動きに体がついていくと、トップで一瞬の「間」が生まれます。この間をうまく作れないと、ナイスショットは望めません。 トップでは左手が右耳の横に上がり、親指の腹でクラブを支える形になります。右前腕部は前傾角度と平行。あごと左肩の間には適度なスペースがあり、両ひじは左右に動かせるぐらい余裕があります。 これが、体が硬い人にとって、最も体が回り、肩が深く入るトップです。 このとき、右手は手のひら側にやや掌屈したグーの形になり、クラブは飛球線とクロスして、クラブヘッドはターゲットよりもやや右を向きます。 私はこれを、「クラブが体に巻きついたトップ」とよんでいます。G1メソッドでは、クラブが体から離れることなく、終始体に巻きつくように動くスイングを目指します。当然、トップでも体に巻きつくようなポジションにクラブが収まるのが自然です。 トップまでの一連の流れを野球のバッティングにたとえて説明しましょう。 バッティングでは、バットを立てて構えているときから左手首は甲側に折れ、右手はグーの形に掌屈して握っています。その体勢からピッチャーがボールを投げるタイミングに合わせてテイクバック。バットを背中側に倒し、首の後ろに巻きつけるようにします。このとき、バットは肩のラインとクロスして、バットの先端がピッチャーの右側を向きます。 この、一ひねりでねじれが頂点に達した瞬間、手を使うことなく体を一気に巻き戻していきます。その結果、あの太いバットが遠回りせずに、しなって体に巻きついたまま最短距離でボールをとらえることができるのです。大谷翔平選手を筆頭にMLBの選手はみな、この打ち方でピンポン玉のようにボールを遠くへ飛ばしています。 私は、このバッティングスキルは、ゴルフにおける「タメ」の形成にもたいへん参考になると考えています。ゴルフのトップも、このバッティングのスキルとまったく同じと考えてほしいのです。 ゴルフスイングのほうが、ヘッドの重さに引っ張られてクラブが巻きついてくるので、より上半身のストレッチが深くなりますが、手元とクラブはまったく同じポジションに収まります。この力感のない一ひねりが、みなさんの飛距離とショットの再現性に貢献します。 じつは、このときの体の使い方は、野球におけるピッチングの動作ともよく似ています。ピッチングのワインドアップの動作では、上体をねじりながら大胸筋を胸骨から引きはがすかのように横に動かし、しっかりと胸を張ります。 ゴルフのバックスイングでも、この体の使い方は共通しています。前傾しているぶん、やや斜め後方に大胸筋を引っ張ると、これに連動して右体側も右脇に向かって伸ばされ、さらに肋骨と肋骨の間にある肋間筋も伸ばされます。 同時に、右股関節が斜め後方に切れ上がり、右の臀部が硬くなります。この体の使い方ができると、クラブが体に巻きついて首の後ろに収まり、非常に深い捻転が得られます。 切り返しで、この伸ばされた筋肉の伸張反射を利用できると、力むことなくスムーズにダウンスイングへと移行できます。伸ばされた筋肉が自然と縮まろうとするはたらきのことを「伸張反射」と言います。バックスイングで目いっぱい伸ばされた大胸筋、腹斜筋、肋間筋の伸張反射をダウンスイングの切り返しの「出力」に利用できると、トップのポジションから右耳の横でクラブが立ったポジションまでのわずかな初動だけで、実質的に「スイング」は終わってしまいます。 そのためには、クラブはトップの位置に置きっぱなしにして、自分からクラブに近づきにいくように右肩を入れてタイミングをとることが重要です。このタイミングが、切り返し時の「出力」になります。そうすることで手が肩から下に落ちずに、クラブも自分の体も同じ方向に動いていけるので、ボールに合わせることなく、減速せずにフィニッシュまで振り切ることができます。 この感覚は、ピッチャーや槍投げのフォーム、あるいは、柔道の背負い投げで相手の懐に入り、右肩を巻き込んで背中を丸めた瞬間に、相手が畳に叩きつけられる感覚にも似ています。 この動きができれば、トップのポジションでクラブと右腕で作られた「逆コの字」の形をキープしたままクラブをおろせるので、これまで経験したことのない軽やかな切り返しを感じることでしょう。 この切り返しのパートが、スイングの生命線とも言える動作です。手を振ることよりも、高い位置での出力が大事で、腰より上で出力したものが、スイングの後半にとんでもない加速を生み出します。手を振り続けると出力と加速が一緒になってしまうので、いつまで経っても飛ばないスイングをし続けることになります。 これまでほとんどのゴルファーがしてきた「左への踏み込み」や「下半身リード」は意識する必要がありません。上半身と下半身の捻転差で飛ばそうとする狙いがあると思いますが、体幹まわりの硬い人が、切り返しで下半身の大きな筋肉を使って、強い筋収縮を起こさせると、体の伸び上がりが生じるなど、体ばかりが先行して振り遅れやキャスティングの原因になります。切り返しから手は振らずに、伸張反射の戻りと一緒に体の右サイドを入れていけば、捻転差を維持したまま、勝手に下半身も作動します。 大事なことは「クラブを振らない」ことです。 さらに連載記事<なぜか「日本」でだけ「当たり前」になってしまった、じつは体を痛める「絶対にやってはいけないゴルフのスイング方法」>では、誤ったスイング方法について詳しく解説しています。
板橋 繁(Gold One Golf School ディレクターオブゴルフ)