ノーベル賞、「AI」がダブル受賞…利便性の陰に負の側面
理研の奥野恭史部門長は「アルファフォールドは素晴らしいが、たんぱく質の体内での変化は推定できない。アルファフォールドにないものを作り上げていきたい」と話す。
がん治療にも
京都大と新興企業「コーディア・セラピューティクス」(神奈川県)は、昨年5月からがんの新薬開発の研究にAIを導入した。
抗がん剤は効き方の個人差が大きく、効く可能性が高い患者かどうかの識別が重要になる。そこで300人以上の患者から採取したがん細胞をマウスに移植し、新薬の候補を投与して、薬の効き方や遺伝子情報などの膨大なデータを収集。富士通のAIに解析させ、薬の効き方に関係する可能性がある遺伝子などの特徴を見いだした。
コーディア社の森下大輔・最高科学責任者は「従来は人海戦術で行っていた作業をAIに任せることで、短時間で多角的に、人が予想し得ない可能性も含めて解析ができた」と説明。京大の小川誠司教授(分子腫瘍学)は「対象者を絞って臨床試験を行うことができれば、薬の開発は大幅に効率化するはずだ」と期待を寄せる。
阪大の福沢薫教授(量子生命情報薬学)はアルファフォールドを創薬研究に活用。がんや免疫系の疾患、生活習慣病、感染症など対象は多岐にわたり、「AIの登場で創薬の現場には劇的な変化が生まれた。ただ、AIが導いた結果を鵜呑(うの)みにしないことも重要だ」と話す。
独自のAI開発
課題は人材の確保だ。経済産業省の2019年の試算によると、30年にはAI関連の人材は全国で最大14.5万人不足するという。
大阪公立大は4月、医療とAIを両方理解できる人材を育てるため、医学部に人工知能学教室を新設した。
代表の植田大樹准教授は放射線科医とAIエンジニアの二つの顔を持ち、物理学賞に選ばれたヒントン氏の論文をもとに独自のAIを開発した。
健康診断などで蓄積された膨大な数の胸部X線画像をAIに学習させ、肺の機能の衰えを発見したり、心臓の弁が正常に機能しなくなる「心臓弁膜症」を高精度で推定したりできるという。数年以内の実用化を目指す植田准教授は「今年のノーベル賞は、AIが単なる道具ではなく、科学の進歩に貢献できることを示した」と話す。